
NSCAジャパン機関誌『Strength and Conditioning Journal Japan』2026年11月号を発刊しました。NSCAジャパン会員のみ読むことができる機関誌ですが、毎号数本はどなたでも読めるフリー記事をご用意しています。
●11月号のフリー記事
・アスリートにおける負荷管理の理論と実践
・エリートサッカー選手のリハビリテーションを効果的に進めるためのパフォーマンス復帰の枠組み
・ボルダー&リード選手の競技パフォーマンスに影響を及ぼす要因とトレーニング戦略:ナラティブレビュー今回はその中から、「アスリートにおける負荷管理の理論と実践」の記事を一部抜粋してご紹介します。
アスリートの負荷管理は、適切な適応と試合でのパフォーマンス最適化に不可欠である。
特に、高頻度で試合が行なわれる競技では、限られた時間で成果を出すために正確な評価が求められる。負荷管理の根幹には、刺激により向上する体力と蓄積する疲労のバランスを捉える、フィットネス-疲労理論がある。
適切な負荷管理には、心拍数や主観的運動強度(RPE)などの生体反応を示す内的負荷と、全球測位衛星システム等で測定する走行距離や高強度走行ラン(HSR)といった外的負荷の、両面からの評価が必要である。
本稿では、負荷管理の理論と現場での応用について議論し、今後の展望について紹介する。
アスリートにとってトレーニングとは、スポーツにおける身体的、精神的、および戦術的な要求に応えられるよう準備するプロセスを指す。トレーニング刺激に対する適応を最適化するために、適切に構成されたトレーニングプログラムでは、量や強度といった負荷に対して、過負荷とバリエーションの原則が活用される。こうしたトレーニング負荷を適切に評価・管理するために用いられるのが、アスリートモニタリングである。
アスリートモニタリングは、トレーニングや試合による“負荷-反応関係(dose-response relationship)”を明らかにするための手法である。また、高い競技レベルにあるアスリートのコンディションを正確に評価することはきわめて重要であり、その状態に応じて、適切なトレーニングが処方されるべきだと考えられている。アスリートモニタリングにおけるトレーニング負荷の評価方法は、一般的に、以下の内的負荷および外的負荷の二つに分類される。
・内的負荷(Internal Training Load):実施した運動量に対して生じる生理的・心理的な生体反応量。心拍数、主観的運動強度(RPE)、血中乳酸濃度などが指標として用いられる。
・外的負荷(External Training Load):トレーニングや試合中に選手が完遂した、客観的な物理的作業量。全球測位システム(GNSS)や加速度計を用いることで、走行距離や高
強度走行(HSR)、加減速の頻度などを詳細に評価できる。
これら内的・外的負荷の両面を評価することで、科学的なトレーニング計画の立案が可能となる。
主観的運動強度
RPE とは、運動時の主観的な負担度を表した指標である。「今日のトレーニングの強度はどの程度であったか」といった負担度を選手に問いかけることで収集される。このRPEに運動時間を掛け合わせることで、セッションRPE(sRPE)を算出できる。これは、あらゆるスポーツ現場において容易に導入可能であり、一般的にはModified Borg Scale(0から10の11段階、CR- 10)を用いて定量化される。
生理学的な生体反応を直接的に捉える手法が、心拍モニタリングである。これは、内的負荷を客観的に定量化するための有効かつ非侵襲的な手法であり、伝統的に、心拍モニターとストラップを胸骨下部に装着する方法が採られてきた。
外的負荷を定量化するための主要なツールがGNSS である。現在、GNSS は、アスリートの移動距離や走行速度を測定する手法として、十分な信頼性と妥当性を備えていることが示されている。一般に、GNSS デバイスは、単独で機能するだけでなく、三軸加速度計やジャイロスコープといった慣性センサー(IMU)を内蔵しており、加速度計由来の変数も同時にモニタリング可能である。

アスリートモニタリングの実践において、コーチやサポートスタッフは、科学的エビデンスに基づく負荷管理を志向している。
データ分析の方法
内的および外的負荷を分析する際、収集されたデータをいかに算出するかは、きわめて重要な課題となる。採用する計算式やデータ処理の手法によって、得られる結果の解釈は
大きく異なりうる。以下の表1 に、スポーツ現場および先行研究において汎用されている主な分析手法を示す

表1 に示す通り、同一のデータであっても、採用する分析手法によってその解釈は異なる。例えば、試合における内的および外的負荷を基準とした相対的評価(試合に対する%)を用いる場合、すべてのトレーニング負荷は、試合のパフォーマンスに基づいて定量化される。さらに、データを分析する期間についても注意する必要がある。
レポートの作成
分析手法の選定後、次に検討すべきは、負荷データのレポーティングである。効果的なレポートを作成するためには、以下の項目を考慮する必要がある。
①変数の選定と情報の粒度:どの変数をレポートに含め、どの程度の深さで共有するか(例:1 日ごとのセッション合計値か、あるいはドリル毎の平均値か)。
②データの提示方法:どのような比較軸を用いるか(例:チーム平均との比較か、あるいはポジション平均との比較か)。
③対象者のデータリテラシー:共有先となるスタッフの理解度に応じた表現。
レポート作成において最優先すべきは、適切な変数を「誰にでも分かりやすく」提示することである。
スタッフとのコミュニケーションとデータの応用
レポート作成後、負荷管理を有効に機能させるためには、競技スタッフとの円滑なコミュニケーションが不可欠である。単にデータをレポート形式で共有するに留まらず、直接的な対話を通じたコミュニケーションが重要であると考える。
アスリートの負荷管理の課題と将来への展望
現在のアスリートにおける外的負荷管理では、距離-ゾーン方式が広く用いられている。この伝統的な方式は、導入で述べた負荷-反応関係を前提として運用されている。しかしながら、GNSS による変数と実際のトレーニング適応の関係性については、最新の知見においても、必ずしも完全には一致しない。
したがって、現場で行なわれている負荷管理、特に外的負荷管理については、その有用性を認めつつも、内在する限界を正しく理解することがきわめて重要になるであろう。また、画一的なデータ管理に終始するのではなく、最先端の理論を現場の文脈へと翻訳・適応させていくプロセスこそが、アスリートモニタリングおよび負荷管理の理論を進化させ、スポーツパフォーマンスの発展をもたらす原動力になると考えられる。
●フリー記事1:アスリートにおける負荷管理の理論と実践
●フリー記事2:エリートサッカー選手のリハビリテーションを効果的に進めるためのパフォーマンス復帰の枠組み
●フリー記事3:ボルダー&リード選手の競技パフォーマンスに影響を及ぼす要因とトレーニング戦略:ナラティブレビュー
その他、11月号には以下の記事を掲載しています。
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