先日、長距離ランナーのストレングス&コンディショニングについての記事を公開しました。
記事の最後に「ランニングと筋力トレーニング(ST)のスケジューリングを考慮することも大切で、ランニングトレーニングとSTの組み合わせ次第では、思った効果が得られないこともあります。これについてはまたの機会に紹介したいと思います。」と掲載しましたので、今回はランニングとSTの組み合わせの効果について紹介したいと思います。
通常コンカレント(同時)トレーニング(CT:concurrent training)は、同一サイクル内で平行して、ランニング等の持久系トレーニングとSTを実施することであり、有酸素性能力と筋力の両方の向上を目的にトレーニングをします。近年ではこの分野の研究や実践されることも多くなってきました。
お分かりかと思いますが、持久系トレーニングとSTは、それぞれもたらす適応や効果が異なります。持久系トレーニングがもたらす主な適応は、心拍出量、ミトコンドリア密度、酵素濃度と酵素活性、および毛細血管密度の増大による最大酸素摂取量の向上等であるのに対し、STの主な目的は、神経筋活性と筋肥大の促進、最大筋力の向上等です。
このような適応の違いにより、CTを実施した際には有酸素性トレーニングの疲労によりSTの効果または筋の適応が妨げられる場合があり、この現象を「干渉作用」と呼び、CTにおいてはなるべく干渉作用を避けることが望ましいと言えます。
上述の干渉作用のように、初期のCTの研究ではCTは有酸素性能力および筋力の利益を損なう可能性があることを指摘されました。ですが最近の研究結果では、CTは有酸素性能力と筋力それぞれのパフォーマンスを改善することが示唆されるようになりました。このような研究結果の相違は、研究デザイン/トレーニング内容の相違によるものと思われます。
したがってより効果を得るために、また干渉作用を避けるためには、複数あるトレーニング変数を適切な方法で組み合わせることが重要となります。逆にこれらの組み合わせを間違うと、効果が得られない状態にもなります。
特に干渉作用は、量や強度/トレーニング負荷の配分など、トレーニングプログラムに関連するいくつかの因子によって起こります。量に関してはエクササイズの頻度または持続時間を考慮した場合、週当たりに多量のトレーニングを行なうことにより筋力の増大が損なわれることが明らかとなっています。
特に一時的な干渉効果を避けるためには、ランニングとSTの実施のタイミングが大切になり、CTのセッション間では4~8 時間の回復時間を確保することが重要となります。それにより、高強度トレーニング後に最長 24 時間後まで確認される神経筋機能と筋力の低下の影響を減らすことができ、後続セッションへの潜在的なマイナスの影響を軽減することができます。
さらにDomaらの研究では、ある 1 日のエクササイズセッションの順序も、ランニングエコノミーに対するそれぞれの利益を得るために重要な留意点であることを示唆しています。この研究では、STセッションをランニングトレーニングセッションの 6 時間前に行なった場合と 6 時間後に行なった場合とを比較し、STを先に行なった場合に、筋の随意収縮の一層大きな低下が認められました。
一方で著者はランニングを先に行なった場合、ランニングからの潜在的な残存疲労の影響がなかったため、STセッションのパフォーマンスに影響を与えなかったと結論づけました。
したがってセッション間の休息時間を拡大すること、そして 1 日のプログラムの最初にランニングセッションを行なう順序にすることがランニングエコノミーのより大きなプラスの適応を可能にすると思われます。ただし間に4~8時間の休息をとってトレーニングを実施することが難しい場合も多いため、その際は翌日に実施するということが現実的な対策として検討されます。
今回はCTの概念と効果、実施法について紹介いたしました。部活動やスポーツチームでは、高強度のSTと高強度のランニングトレーニングを同日内に、短い休息または連続して実施することもあると聞きますが、その場合思ったような効果が得られないばかりかオーバートレーニングのリスクも発生します。
効果的に行うためには、しっかりと計画立てて行うようにしましょう。
NSCAジャパン2022年翻訳掲載分 Volume 29, Number 10, pages 24-35
原文Strength & Conditioning Journal Vol44, No.3, 46-57
NSCAジャパン2020年翻訳掲載分 Volume 27, Number 8, pages 17-23
原文Strength & Conditioning Journal Vol42, No.2, 38-44