ベンチプレスやスクワットなどのトレーニング時に、バーベルを胸に下ろす動作あるいはしゃがむ動作や、腕を伸ばしてバーベルを持ち上げる動作あるいは立ち上がる動作を、それぞれ何秒くらいかけて日頃実施していますか?特に意識していない方も多いかと思いますが、今回紹介する記事は、そんな動作の時間(テンポ)、つまり筋活動を持続する時間の違いが、最大筋力向上効果にどのように影響するのか、様々な研究をまとめ、分析した記事です。
筋活動の持続時間(MAD:muscle action duration)は、筋力、パワー、筋肥大の改善に影響を及ぼす可能性のある要因のひとつとされています。さらに一連の研究結果は、伸張性筋活動(筋が伸ばされながら力を発揮する)および短縮性筋活動(筋が縮みながら力を発揮する)それぞれのMADが、異なる神経系および生理学的効果を誘発することを示唆しています。したがって、同じMADの総反復回数である場合、異なる伸張性筋活動および短縮性筋活動のMADは、異なる性質の神経筋適応を促進する可能性があるとされています。
この記事で取り上げられている研究では、トレーニングを行なっていない者(研究前に少なくとも3ヵ月間通常のレジスタンストレーニングを実施していなかった参加者、または研究者によってトレーニングをしていないと分類された参加者)とトレーニングを行なっている者それぞれに対する影響が示されています。
現在公開されている文献では、トレーニング状況に応じて、どの伸張性筋活動および短縮性筋活動のMADが最大筋力の発達に最も適しているのか、または最大筋力の発達を促すための最適な強度を具体的に特定することはできないとされていますが、ここでは様々な研究が示されています。例えば、トレーニングを行なっていない者を対象とした研究で、短縮性筋活動のMADが短く、中程度の長さの伸張性筋活動のMADでは、最大動的筋力のより大きな向上につながる可能性が示されています。なおこの際のテンポは、伸張性筋活動/切り返し局面/短縮性筋活動/次のレップへの以降局面の各秒数が、2~4秒/0秒/1秒/0秒でした。またトレーニングを行なっている者を対象とした研究では、爆発的な短縮性筋活動は、最大短縮速度の2倍の時間で実施した短縮性筋活動と比較して、最大動的筋力のより大きな改善につながることが明らかとなりました。これは、運動速度が速いほど、より多くのタイプⅡb線維が動員され、その結果、最大動的筋力の発達が誘発される可能性があるとされています。
これらを含めた現状での見解としては、中程度の伸張性筋活動のMAD(3~4秒)と組み合わせた高速での短縮性筋活動のMADは、トレーニングを行なっていない者とトレーニングを行なっている者の両方で、最大動的筋力のより大きな改善を誘発する可能性があることが示されています。
記事には、このほかに筋パワー向上や筋肥大に対するMADの影響についても示されています。上記のとおり、各トレーニング目的に対する最適なテンポを明らかにするには、まだ研究が不足しているといえますが、トレーニング指導者やトレーニングを実施している方々は、トレーニング状況を考慮し、現在利用可能な知識を活用して、レジスタンストレーニングの適応を最適化なものとするために、トレーニングの動作テンポというものに目を向けてみるとよいかもしれません。
NSCAジャパン2024年翻訳掲載分 Vol.31 No.2 p.51~67
原文 Strength & Conditioning Journal Vol44, No.5, 39-56