• スポーツ・健康
  • 歩行速度を高めるトレーニングと寿命の関係

    歩行能力は寿命と関連があり、歩行速度や歩幅が優れている人の方が寿命は長いとされています。
    本日は歩行能力と寿命の関連性、高齢者の歩行能力の維持・改善や体力向上のためのトレーニングについて紹介したいと思います。

    加齢による歩行能力の低下と寿命

    歩行能力の低下や歩行頻度および歩行距離の減少は身体活動の減少や体調不良を表すとされています。加齢による歩行能力の低下は顕著であり、20歳時の歩行能力を 100%とすると、80 歳時における能力は40~60%低下するという報告もあります。

    ここで歩行速度と死亡率、あるいは脳機能障害等に陥る危険度との間に大きな関係があると報告しているデータを紹介します。
    65 歳以上の被験者 439 名を対象に、年間に及ぶ健康と身体機能回復を目的としたトレーニングプログラムを実施し、8 年後の死亡率に及ぼす影響を検討しました。
    その結果、臨床学的所見の6つの項目において、その後の死亡率と関係があったものは、歩行速度の改善の有無だけであることがわかりました。歩行速度に改善がみられた場合の8 年後の死亡率は31.6 %、一時的な改善では41.2 %、改善なしの場合は49.3 %でした。
    これらの結果から、歩行速度の改善は、死亡率低下を予見できる可能性があると考えられます。

    寿命に加え、筋力低下に起因する歩行能力の低下は転倒リスクが高まることに繋がるとされていますので、健康に過ごすために歩行速度を維持・改善することは非常に大切であると言えます。

    高齢者における歩行能力改善のためのトレーニング

    健常な高齢者では下半身のパワートレーニングを行なった結果として歩行時の歩幅が増加し、立脚期の股関節や膝関節の伸展などがみられ、足関節底屈筋力の変化が歩行速度を改善するなど、歩き方の変化が示されています。高齢者では、特に速筋線維と言われるタイプⅡ筋線維が減少しやすいと言われているため、速度を上げて実施するパワー系のトレーニングは非常に重要であると言えます。
    特に上記の歩行能力の改善には、下肢伸展動作を用いるスクワット、歩行時の片脚支持の際に働く大殿筋を動員し、高齢者における片脚支持でのバランス能力を養うことのできる、ランジエクササイズは効果的であるとされています。

    トレーニング実施の際の考慮事項

    実際に高齢者がトレーニングを行う際に最も重要なことは、高齢者の体力特性や状態を考慮し、より安全かつケガを生じないように行なうことです。速度を上げたパワートレーニングを最初から実施すると動作が安定しない場合も予想されるため、まずは低~中強度でフォームの安定やトレーニングに慣れることを目指します。
    例えばスクワットでは、まずは椅子から立ち上がるようにして動作を行うことで、転倒の可能性が低くなります。フォームが安定してきたら、パワー発揮を意識して速度を上げたり、身の回りの物を使って負荷をかけたりすることもできます。

    加えて、ランジのような片脚支持のエクササイズでは、よりバランス能力が求められるため、実施の難易度が上がります。NSCA ジャパンでも、過去に高齢者を対象にしたトレーニングを行った際、最初の段階では、ランジ動作を適切に行える参加者は多くはありませんでした。そのため、まずは手すりなどにつかまり、安定させた状態からランジ動作を行い、フォームが安定するにつれて徐々に支えを減少させ、可能な範囲でパワーを意識して、速度を上げていくということも効果的なプログレッションとして考えられます。

    上記はあくまで一部の例にすぎませんが、以下の表に高齢者のトレーニングにおける総合的な推奨事項が記載されています。是非安全に配慮いただき、可能な範囲で歩行能力の改善にアプローチできるようなパワートレーニングも実施していただき、さらに歩行能力に限らず高齢者の総合的な体力向上のためのトレーニングも実施していただければと思います。

    参考文献

    NSCAジャパン2012年掲載分 Volume 19, Number 8, pages 5-9
    生活習慣病予防と脳機能改善のための筋力トレーニング

    NSCAジャパン2022年掲載分 Volume 29, Number 1, pages 4-14
    高齢者のADL向上のためのパワートレーニング

    平成 30 年度健康・体力づくり事業財団研究助成 pages36-47
    高齢者における各体力要素と歩行様式の関連性

    NSCAポジションステイトメント
    高齢者のためのレジスタンストレーニング

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