• スポーツ・健康
  • サッカー選手のハムストリングス肉離れを防ぐには ―多様な刺激を組み合わせる重要性―

    FIFAワールドカップが開催され、世界中で盛り上がっていますね。大会期間中は、各国代表が過密日程や大移動の中で、コンディションを管理しながら最高のパフォーマンスを競っていますが、サッカーにおいて最も多い非接触傷害の1つに、ハムストリングス肉離れがあります。今回は、サッカー選手の肉離れとその予防についてご紹介します。

    サッカーにおける肉離れ

    サッカーにおいて、ハムストリングスの肉離れは多くみられる傷害の1つです。競技復帰までに時間を要するだけでなく、再受傷リスクも高いことが知られています。

    ハムストリングス肉離れは、スプリント中、特に脚を前方へ振り出した後、接地に向けて脚をコントロールする局面で発生しやすいとされています。この局面では、ハムストリングスが大きく引き伸ばされながら力を発揮するため、筋に大きな負荷がかかります。

    予防のためには、単に「ハムストリングスを鍛える」だけでは十分ではありません。サッカーで求められる動作の特徴を踏まえ、どのような力の発揮が必要なのかを理解することが重要です。

    ハムストリングス肉離れの危険因子と代表的な予防エクササイズ 

    ハムストリングス肉離れの危険因子のうち、修正可能な要素としては、主に以下の点が挙げられます。

    ・ハムストリングスの筋力不足
    ・大腿四頭筋に対するハムストリングスの筋力比の低下
    ・大腿二頭筋長頭の筋束長の短さ
    ・ピークトルクを発揮する関節角度の問題

    これらは、適切なトレーニングによって改善が期待できる要素です。

    近年、ハムストリングス肉離れ予防の代表的なエクササイズとして、ノルディックハムストリングが広く知られるようになりました。ノルディックハムストリングは、ハムストリングスの伸張性筋力を高めるうえで有効なエクササイズです。

    多様な刺激を組み合わせる重要性

    しかし、サッカーの動きは先述の内容だけで構成されているわけではありません。スプリント、減速、方向転換、ジャンプ、キック、コンタクトなど、多様な動作が連続して起こります。そのため、肉離れ予防のトレーニングも、1一つのエクササイズだけではなく、表のように複数の刺激を組み合わせることが重要です。

    実際に、サッカー選手を対象としたシステマティックレビューでは、低速度・高速度、伸張性・短縮性、伝統的な筋力トレーニングなど、幅広いエクササイズを組み合わせた介入のほうが、少ない種類のエクササイズを行なうよりも、肉離れの危険因子を幅広く改善する可能性が示されています。

    現場での実践

    現場での実践ポイントとしては、ノルディックハムストリングを活用しつつ、他のエクササイズとどのように組み合わせるかが重要です。

    例えば、ノルディックハムストリングやルーマニアンデッドリフトなどを用いて、ハムストリングスの伸張性筋力を高め、さらに、デッドリフト系エクササイズやヒップスラストによって、股関節伸展筋群としての出力を高めます。加えて、スプリント、バウンディング、減速動作、方向転換動作などを段階的に取り入れることで、実際のサッカー動作に近い高速度の刺激を加えていくことも重要です。

    特に、最大速度に近いスプリントを安全に経験させることは、サッカー選手にとって欠かせません。ハムストリングス肉離れは高速度ランニング中に多く発生します。普段のトレーニングで高速度の刺激が不足していると、試合中の急なスプリントに対して身体が十分に準備できず、肉離れを起こしてしまう可能性があります。

    もちろん、いきなり全力スプリントを大量に行うべきではありません。選手のトレーニング状況、既往歴、疲労状態、シーズン中かオフシーズンかどうかを踏まえ、段階的に負荷を高める必要があります。

    また、上述のようなトレーニングセッションに加え、ウォームアップにも予防プログラムを組み合わせることで、より包括的な予防戦略になります。FIFA 11+のような傷害予防プログラムも有効な選択肢です。

    まとめ

    サッカー選手のハムストリングス肉離れを防ぐためには、魔法のような単一のエクササイズは存在しません。重要なのは、選手に必要な能力を整理し、伸張性筋力、股関節伸展筋力、高速度ランニング、減速・方向転換能力をバランスよく高めることです。

    ノルディックハムストリングは有効ですが、それだけで十分とは限りません。サッカーという競技の特性を踏まえ、多様な刺激を計画的に組み合わせることが、ハムストリングス肉離れ予防の鍵になると考えられます。

    記事データ

    NSCAジャパン2024年翻訳掲載分 Vol.31 No.4 p.49~68
    原文 Strength & Conditioning Journal Vol.45, No.2, 207-227

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