
前十字靭帯(ACL)は、膝関節を安定させるために存在する2つの十字靭帯のうちの1つ。脛骨が大腿骨に対して前方へ移動する役割や、内側へ回転しすぎないように動きを制限する役割を担っています。急停止や旋回動作の多いスポーツ競技での損傷が多い前十字靭帯ですが、今回のコラムでは、膝関節への負担を減らすために、どのような動作パターンが有効であるかを検証した一例を紹介します。
Stronger subjects select a movement pattern that may reduce anterior cruciate ligament loading during cutting.
Davies, William T.1; Ryu, Joong Hyun2; Graham-Smith, Philip2; Goodwin, Jon E.3; Cleather, Daniel J.3
Journal of Strength and Conditioning Research 36(7):p 1853-1859, July 2022.
筋力のより強い被験者はカッティング動作中に前十字靭帯への負荷を軽減させ得る動作パターンを選択する。
前十字靭帯の損傷は、スポーツで起こる重大な傷害の一つです。しかし、その受傷メカニズムに関しては、いまだ明確になっていません。また、これらの研究が比較的多いにもかかわらず、怪我の発生率は減少していないとの報告もあります(1、2)。
ACL(Anterior Cruciate Ligament)損傷の受傷時のメカニズムを調査した先行研究の映像をみると、受傷時の膝の屈曲角度は30度以下であった(5、6)との報告があります。
さらに、接地時の膝の屈曲角度の減少がACLへの負荷を増大する(3、4)という報告もあり、これらの情報から、接地時の膝関節の屈曲角度はACLにかかる負荷と関連があることが考えられます。

より広範囲な神経―筋系のトレーニングプログラムの一環として筋力を向上させることは、前十字靭帯(ACL: Anterior Cruciate Ligament)損傷の発生率を低下させると示唆されていますが、そのメカニズムは明確になっていません。
カッティング動作(急激な方向転換や減速・加速を伴うフットワークのこと)は、ACL損傷のリスクが高い動きといえますが、この動作中の矢状面上のバイオメカニクスに筋力がどのように影響するかについての研究は少ないです。
本研究は、個々の筋力の差と方向転換時の下肢関節のキネマティクスとの関係性を調査し、ACL損傷に対してより安全なカッティング動作を提唱することを目的としました。
方向転換が必要とされるスポーツに現在も参加し、最低でも5年の経験のある16名の男性を被験者とした。
16名の被検者は、片側スクワットにおける相対的なアイソメトリック筋力に応じて筋力の強い群と弱い群に振り分けられた(筋力の強い群:筋力29.0±3.4 N/kg、年齢34.2±5.0歳、身長177.2±7.1cm、体重79.3±10.1kg;筋力の弱い群:筋力18.3±4.1 N/kg、年齢36.0±4.9歳、身長178.1±8.0cm、体重76.3±12.6kg)。
被験者は、異なる速度(2、4、6 m/s)で45度のカッティングを全力で3回行った。光学式モーションキャプチャーとフォースプレートを用いて、キネマティクスと床反力を計測した。
筋力の強い群は、筋力の弱い群に比べて膝関節伸展モーメントが低いことに対し、股関節伸展モーメントが高く、膝関節の最大屈曲角度が大きかった(p<0.05)。合成床反力(床反力ベクトルのこと。立位時に足裏と地面の接触面に生じる力を1つのベクトルとしてまとめたもの)については両群間に違いはみられなかった。
より筋力の強い群は、カッティング動作中に膝関節よりも股関節に依存し、膝関節の屈曲角度も大きかった。これによって、負荷を受ける際に膝関節で必要とされる伸展モーメントを減少させることでACLへの負荷を減少させることができる。同様に、負荷を受ける際のより大きな膝関節の屈曲は、ACLを保護する可能性がある。
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本研究では、筋力の強い人と弱い人でカッティング動作において顕著な差が出ることが示されました。進入速度は最高でも6m/sとそこまで速くないものの、大変興味深い結果となりました。
近年では、膝関節の外反動作はACL損傷とは直接的な関連性が低いとする報告もあり(3、7、8)、ACL損傷については前述の膝の屈曲角度など他の要因が強く関連していると考えられてきています。
今回紹介した研究の結果から、ACL損傷の予防に関しては、ACLへの負荷をより低減させるようなカッティング動作をとるための筋力向上も有効な手段であると考えることができるでしょう。
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