最近、様々なジムで見かけることになったヘックスバー。今日はデッドリフトを中心に、ヘックスバーを利用したエクササイズをご紹介します。
近年、トレーニング施設でよく見かけるようになった器具のひとつに「ヘックスバー」があります。六角形のフレーム内に立ち、負荷を体の近くで保持できるこのバーは、通常のバーベルに比べて腰部へのストレスを軽減できる点が大きな特徴です。そのため、安全性を確保しつつ効率的に筋力やパワーを高められる可能性があり、トレーニングにおいて注目を集めています。
本稿では、ヘックスバーを使った3つのエクササイズ「デッドリフト」「ファーマーズウォーク」「ジャンプスクワット」について、その利点や効果を研究結果とともに紹介します。
デッドリフトは下肢、股関節、背部、体幹といった大筋群を対象とする基本的なエクササイズですが、通常のバーベルを用いた場合、体格や柔軟性の制限によってフォームが崩れやすく、腰部に過度な負担がかかることもあります。
ヘックスバーを使用すると、身体の中心近くで負荷を保持でき、より体幹部を安定させた直立に近い姿勢を保つことができます。また、前腕が解剖学的に自然な位置に置かれるため、腰部や上肢へのストレスが軽減されます。
上級パワーリフターを対象にした研究では、ヘックスバーデッドリフトの方が通常のデッドリフトよりも大きな重量(265.0±41.8 kg vs 244.5±39.5 kg)を扱えることを示しました。さらにバーの変位量が減少し、ピーク速度とピークパワーも大きくなることが明らかになっています。
また、65%および85%1RMでの比較をした研究において、ヘックスバーを用いた場合に外側広筋の筋活動が高まり、ピークパワーやピークフォースが高まることがわかりました。
こうしたエビデンスは、腰部に問題を抱える選手にとってもヘックスバーが安全で有効な選択肢となることを裏づけています。
ファーマーズウォークは、両手に重い負荷を持って一定距離をできるだけ速く歩くストロングマン競技由来のエクササイズです。ヘックスバーを使えば、特別な器具を用意せずに取り入れることができます。
この種目は握力や体幹安定性の強化に直結するだけでなく、競技パフォーマンスへの転移も期待できます。
例えば、デッドリフトの70%1RMを用いたファーマーズウォークで、通常歩行より大きな体幹屈曲が生じることが示されており、こういったコア筋群の強化が他の動作効率やパフォーマンスを高めると言われています。またこの文献の著者は、高速のファーマーズウォークが広い歩幅、素早いステップ頻度、短い接地時間を特徴とすることを確認し、これらは走動作の動作特性と共通する点が多いとしています。
したがって、ファーマーズウォークは単なる筋力強化だけでなく、走動作や体幹の安定性の向上に寄与する実践的なエクササイズであるといえます。
ジャンプスクワットは筋力を素早く発揮する能力、すなわちパワーを高めるための代表的なエクササイズです。
従来はバーベルを肩に担いで行う方法が主流でしたが、頸部や体幹への負担が課題となっていました。しかしヘックスバーを用いた場合、負荷が身体の重心近くにかかるため、より自然な跳躍動作を再現できることが利点です。
ある研究では、負荷が体幹とは独立して動くことで、より自然なカウンタームーブメントジャンプに近い動作が可能になると指摘しています。
またラグビー選手を対象にした研究では、ヘックスバージャンプスクワットのピークパワーがカウンタームーブメントジャンプの高さと正の相関(r=0.80)、10 mおよび20 mスプリントタイムと負の相関(r=−0.70, r=−0.75)を示すことが明らかにされています。
つまり、ヘックスバーで大きなパワーを発揮できる選手ほど、実際のジャンプや短距離疾走でも優れたパフォーマンスを発揮する可能性が高いのです。
このことから、ヘックスバージャンプスクワットはパワー強化だけでなく、ジャンプやスプリントなど競技特異的な能力向上に関わるエクササイズといえるでしょう。
ヘックスバーは従来のバーベルを否定するものではなく、それらを補完し、アスリートの身体的特徴やトレーニング環境に応じて柔軟に取り入れられる器具です。
デッドリフトでは挙上重量やパワーの向上、ファーマーズウォークでは握力・体幹・走動作の強化、ジャンプスクワットではジャンプ力や疾走力との関連が示されています。
腰部への負担を軽減しながら、筋力・パワーを総合的に高められるヘックスバーエクササイズの実施を是非検討してみてください。