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  • 高齢者の“動ける力”を守る:高速レジスタンストレーニングの効果と実践法

    人生100年時代、いつまでも自分らしく活動的な毎日を送るために「健康寿命」はますます重要になっています。今回ご紹介するのは、高齢者の“動ける力”を維持するための新しいアプローチ「高速レジスタンストレーニング」です。

    今回は、NSCAジャパン S&Cジャーナル2016年4月号で紹介された記事「高齢者の高速レジスタンストレーニング:加齢による機能的能力の低下を防ぐ新たな取り組み」を基に、高齢者の“動けるカラダ”を維持するための新しいアプローチをご紹介します。

    従来の筋トレ×「速さ」が重要?

    加齢に伴う筋力の低下(サルコペニア)が、日常生活の様々な活動を困難にすることは広く知られています。そのため、多くの高齢者が筋力維持のためにレジスタンストレーニング(筋トレ)に取り組んでいます。 

    従来の筋トレは、比較的ゆっくりとした動作で重い負荷を扱うことに重点が置かれがちでした。しかし、この記事では、日常生活におけるとっさの動きの重要性を指摘しています。

    例えば、つまずいた時に素早く足を出して体勢を立て直す、バスの揺れに対して踏ん張るなど、こうした場面で求められるのは、単なる筋力だけではなく、従来の筋力トレーニングに「速さ」の要素を加えた高速レジスタンストレーニングです。

    素早く発揮する能力は、加齢によって特に低下しやすいことが分かっています。そのため、高齢者のトレーニングでは、従来の筋力トレーニングに「速さ」の要素を加えた「高速レジスタンストレーニング」を取り入れることが、転倒予防や機能的な能力の維持・向上に非常に効果的であると紹介しています。 

    高速レジスタンストレーニングの効果

    この記事では、過去に行われた数多くの研究をレビューし、高速レジスタンストレーニングが高齢者に与えるポジティブな影響を明らかにしています。

    機能的能力の向上
    様々な研究で、高速トレーニングが筋力やパワーを向上させるだけでなく、歩行速度、椅子からの立ち上がり、バランス能力といった日常生活に直結する能力を有意に改善させることが報告されています。

    安全かつ効果的なプログラム
    トレーニングは週2~3回、1セットあたり8~15回程度の反復回数で、最大挙上重量(1RM)の40~80%という中~高強度で行われた研究が多く、継続することで大きな効果が得られることが示されています。

    トレーニングの中断(ディトレーニング)の影響
    もしトレーニングを一時的に中断した場合、筋力は比較的大きく低下するものの、一度向上させたパワー(素早く動く能力)は維持されやすい傾向があることも示唆されています。これは、トレーニングによって神経系の働きが改善されるためと考えられます。 

    現場で活かすためのプログラムデザインのヒント

    この記事では、トレーニング指導者が現場でプログラムをデザインする上での重要な視点を提供しています。

    「速さ」を意識したメニューの導入
    従来のレッグプレスやニーエクステンションといった種目に加え、「できるだけ速く挙げる」という意識付けを促します。負荷は、安全性を確保しつつも、速度を意識できる範囲で設定することが重要です(例:1RMの40~60%)。 

    個別性の重視
    高齢者は体力や健康状態に個人差が大きいため、画一的なプログラムは危険です。トレーニング経験のない方には、より低い強度から始め、正しいフォームを習得することを優先しましょう。

    ウォームアップとモニタリングの徹底
    トレーニング前にはウォーキングや関節可動域を広げるエクササイズなどを十分に行い、専門家が常に利用者の状態をモニタリングすることが安全な実施の鍵となります。

    複合的なアプローチ
    筋力とパワーだけでなく、全身のバランス能力を高めるエクササイズも組み合わせることが、より機能的な身体作りにつながります。 

    まとめ

    高齢者の健康増進と自立した生活の維持のためには、従来の筋力トレーニングに「速さ」の要素を加えた高速レジスタンストレーニングが極めて有効です。このアプローチは、筋力低下という加齢に伴う自然な変化に対抗するだけでなく、転倒などのリスクを減らし、日々の生活の質(QOL)を向上させる大きな可能性を秘めています。

    指導者の皆様は、ぜひこの記事を参考に、クライアント一人ひとりの状態に合わせた安全で効果的なプログラムを提供し、アクティブな高齢者を一人でも多くサポートしていきましょう。 

    出典

    Marques, M. C., Izquierdo, M., & Pereira, A. (2016). 高齢者の高速レジスタンストレーニング:加齢による機能的能力の低下を防ぐ新たな取り組み. NSCA JAPAN, 23(3), 45-51. 

    この記事はNSCAジャパン会員限定でご覧いただけます。ご興味のある方はこちらから。

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