筋肥大や筋力の向上を目指すアスリートにとっては、たんぱく質の必要量が増えることは周知の事実かもしれません。こういったアスリートに対し、国際スポーツ栄養学会は約1.4-2.0g/kg体重/日のたんぱく質の摂取を推奨しています。
一方で、たんぱく質は摂り過ぎた場合には尿として排出され、腎臓に負担がかかります。そのため、たんぱく質の摂取間隔を等分に配分することがポイントの1つです。
日本人の食事摂取基準では、18歳以上の男性は1日65g、女性は50gのたんぱく質摂取が推奨されています。しかし、これはあくまで健康維持のための指標であり、筋肥大や筋力向上を目指すアスリートなら、話は別です。
国際スポーツ栄養学会が2017年に発表した公式見解では、運動している人の多くは、トレーニングの効果を最大限に引き出すために、体重1kgあたり1.4~2.0gのたんぱく質を毎日摂取すべきだとしています。つまり、体重が70kgの人なら、1日あたり98g~140gのたんぱく質が必要になる計算です。
これを裏付ける興味深い研究があります 1)。様々なたんぱく質摂取量で、トレーニングによる除脂肪体重(脂肪を除いた体重)の増加を調べたところ、年齢や性別に関わらず、体重1kgあたり1.6gまでは、摂取量が増えるほど除脂肪体重も増えることが分かりました。しかし、それ以上、例えば2.0g摂っても、増加量はほとんど変わらなかったという結果が出ています(図1)。
たしかに、たんぱく質の摂取量が少ないと体に必要な分が供給されず、効率的な体づくりは難しくなります。しかし、ある一定量を超えて摂取しても、それ以上、筋肉などのたんぱく質合成がどんどん進むわけではありません。
血中に溢れたアミノ酸や分解された組織たんぱく質は、代謝されて体の外へ排出されます。このとき、アミノ酸に含まれる窒素は、肝臓で「尿素」という物質に変わり、腎臓を通して体外へ排泄されます。
つまり、たんぱく質を摂りすぎると、肝臓や腎臓に余計な負担をかけてしまう可能性があると言われています。
中には体重1kgあたり4g以上のたんぱく質を長期にわたって摂取しても健康上の問題がなかったという研究もあります 2)。ほかの栄養素の摂取バランスや、たんぱく質の代謝に係るビタミンの消費を考えると、たんぱく質は摂りすぎてもよくないでしょう。
主に食事から摂る食品のうちでたんぱく質が多く含まれるものは、肉類、魚介類、豆類(大豆・大豆製品など)、卵類、乳類です。また、主食として食べている米、小麦、そばなどの穀類も、実は重要な植物性たんぱく質源です。ごはん茶碗1杯(150g)には、約4gのたんぱく質が含まれるので、1日に茶碗3杯のご飯を食べた場合には12gのたんぱく質摂取量となり、これは鶏卵約2個分のたんぱく質量に相当します。
近年、世界的な人口増加に伴う食料危機や環境問題、動物愛護、そして健康志向の高まりといった様々な理由から、動物性肉の摂取を控える動きが加速しています。動物性肉に代わるたんぱく質源として使用される食品は、代替肉、あるいはフェイクミートなどと呼ばれ、大豆など植物由来のものや、欧米では真菌由来のマイコプロテインと呼ばれるものも流通しています。
さらには、大阪万博では3Dバイオプリント技術を用いた培養肉の実物や、家庭で霜降り肉を作れる「ミートメーカー」のコンセプトモデルを展示しており、食料問題や環境問題への解決策として期待される培養肉の可能性を提示しています。培養肉は動物の細胞を培養して作られるため、基本的に通常の肉と同じたんぱく質を含んでいます。
また、日本では大豆を使った代替肉が大豆肉、大豆ミートと呼ばれ、近年大手食品メーカーでの製造・販売が進み、スーパーマーケット等でも簡単に手に入るようになりました。
代替肉の歴史は比較的新しいと思われがちですが、日本や中国で古くから食べられている豆腐も、本来、動物性たんぱく質が手に入りにくい時代の人々のたんぱく質摂取源であり、代替肉と考えることもできるでしょう。
肥満を考える上で、単に総カロリーや脂質、炭水化物の量だけでなく、たんぱく質の摂取量を適切に保つことが重要である。「プロテインレバレッジ仮説」という、肥満とたんぱく質摂取量の関係を説明する有力な仮説があります。この仮説は、オックスフォード大学のSteve J. Simpson博士によって2005年に提唱されました3)。
どんな仮説かというと「人間を含む多くの生物は、必要なたんぱく質量を満たすまで食事を続ける傾向がある」というものです。現代の加工食品は、高脂肪・高炭水化物でありながら、たんぱく質が希薄なものが多いため、人々は必要なたんぱく質を摂取しようとすると、結果的に総摂取カロリーが増加し、肥満につながるというメカニズムを提唱しています。
つまり、たんぱく質が不足していると食欲が満たされにくく、エネルギーを十分に摂取していても身体はたんぱく質を求め続けてしまうため、余分なエネルギーを摂取して太ってしまう可能性があるということです。
たんぱく質の摂取を考えるには、何を・いつ・どのくらい摂るかが重要です。食事では、動物性と植物性のたんぱく質を組み合わせることを意識することが望ましいです。また、食事以外のタイミングでたんぱく質を摂取する際は、通常食品に加えて必要に応じて補助食品やサプリメントの利用も検討しながら、1日のスケジュールの中で、どの時間帯にどれくらいのたんぱく質を摂るかを計画しましょう。
1. Morton, Robert W et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. British journal of sports medicine vol. 52,6, 2018
2. Antonio, Jose et al. “The effects of consuming a high protein diet (4.4 g/kg/d) on body composition in resistance-trained individuals.” Journal of the International Society of Sports Nutrition vol. 11 19, 2014.
3. Simpson SJ, Raubenheimer D. Obesity: the protein leverage hypothesis. Obes Rev. vol. 6(2), 2005