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  • ウエイトリフティングエクササイズvs荷重したスクワットジャンプ

    全身のパワー発揮にウエイトリフティングを応用することが効果的であることは知られていますが、指導者の不在や技術習得に時間が必要など様々な課題も隠れています。またテクニックの未熟な選手が試合期にパワー発揮能力をどのように維持させるかもプログラムデザインで悩むところです。今回は、そんな時に役立つ研究結果をご紹介します。

    はじめに

    クリーンやスナッチといったウエイトリフティングの種目によるパワーや跳躍パフォーマンスの向上効果は多く報告されています(1,2,3,4)。しかしながらウエイトリフティングのエクササイズの習得は容易ではなく、経験のあるコーチによる指導が必要であり、また習得後も継続したコーチングが必要となってきます。また、現状では施設や設備面でウエイトリフティングエクササイズの実施が難しいケースもあります。

    今回紹介する論文では、ウエイトリフティングエクササイズまたは荷重したスクワットジャンプを含むトレーニングを行いその効果を比較しています。

    Comparison of the hang high pull and loaded jump squat for the development of vertical jump and isometric force-time characteristics.
    垂直跳びとアイソメトリックの力―時間特性の向上のためのハングハイプルと荷重したジャンプスクワットの比較
    Oranchuk, DJ, Robinson, TL, Switaj, ZJ, and Drinkwater, EJ.
    J Strength Cond Res 33(1): 17–24, 2019

    目的

    ウエイトリフティングの動作は高度な技術及び熟練したコーチングが必要である。荷重したジャンプは比較的高い技術を必要としないがおそらく、爆発的なパフォーマンスの向上にとって同様に効果的である。この研究の目的は、10週間のハングハイプル(hang-pull)もしくはトラップバージャンプスクワット(jump-squat)の介入後の跳躍パフォーマンス、アイソメトリック筋力及び力の立ち上がり率(RFD:Rate of Force Development)を比較することである。

    被験者

    全米大学スポーツ協会(NCAA:National Collegiate Athletic Association)ディビジョン2に所属する18名の水泳選手(男性8名:年齢19.6 ± 2.7歳(18–22歳)、身長180.0 ± 8.4 cm、体重76.2 ± 11.2 kg、女性10名:年齢21.4 ± 3.0歳(18–24歳)、身長167.9 ± 6.8 cm、体重62.6 ± 8.3 kg)が研究に参加した。被験者は最低でも1年間のレジスタンストレーニングの経験があった。

    方法

    測定はスクワットジャンプ(SJ)、反動を使ったジャンプ(CMJ)及びアイソメトリックミッドサイプル(IMTP:Isometric Mid-Thigh Pull)を行った。垂直方向の床反力を跳躍高と相対的な最大パワーを得るために分析した。相対的な最大フォース、最大RFD、及び5つの時点での相対的なフォースをIMTPから得た。被験者は無作為にhang pull(n=9)またはjump-squat(n=9)のどちらかに振り分けられ、10週間のボリュームが均一化され、期分けされたトレーニングプログラムを行った。

    結果

    両グループにおいて有意なトレーニングの主作用があったにも関わらず、統計的なグループ間の差はどの従属変数にも見られなかった(p≧0.17)。しかし、SJの跳躍高(d=0.56)及びSJの最大パワー(d=0.69)において中程度の効果量がジャンプスクワットのグループに見られた。

    結論・応用

    荷重したジャンプは、レジスタンストレーニング経験のあるアスリートにおいて、下半身のパワーを向上させるためにウエイトリフティングからの派生エクササイズと同等に効果的であった。荷重したジャンプはウエイトリフティングよりもスキルやコーチングの必要性が少ないため、複雑な動作をコーチングすることが難しい場合に荷重したジャンプが考慮されるべきである。

    まとめ

    結果が示すように、この研究ではウエイトリフティングエクササイズ(ハングハイプル)と荷重したスクワットジャンプ(トラップバースクワットジャンプ)のトレーニング効果に統計的に有意な違いは表れませんでした。

    アスリートのトレーニングにおいてパワーや跳躍パフォーマンスの向上はスポーツパフォーマンスの向上において重要な要因となります。しかしながら、それらのパフォーマンス要素の向上に有効とされるウエイトリフティングを行える環境や施設が限られている現状はまだまだ多くあります。したがって、今回の研究結果は、ウエイトリフティングを指導できるコーチが不在であることや安全にクリーンやスナッチなどを行える環境にない限られた条件の中でトレーニングするアスリートにとっては役に立つ結果といえます。

    またコーチにとってもエクササイズテクニックが未熟な選手へのプログラムをデザインする際の参考になるのではないでしょうか。エクササイズ導入の短期的視点と長期的視点から期分けに応じて使い分けることも考慮することができます。

    オリジナルの文献

    The Journal of Strength & Conditioning Research
    Journal of Strength and Conditioning Research 33(1): p 17-24, January 2019.

    参考文献

    1. Otto, III, WH, Coburn, JW, Brown, LE, and Spiering, BA. Effects of weightlifting vs. kettlebell training on vertical jump, strength, and body composition. J Strength Cond Res 26(5): 1199–1202, 2012
    2. Channell, BT and Barfield, JP. Effect of Olympic and traditional resistance training on vertical jump improvement in high school boys. J Strength Cond Res 22(5): 1522-1527, 2008
    3. Arabatzi, F, Kellis, E, and Saèz-Saez de Villarreal, E. Vertical jump biomechanics after plyometric, weight lifting, and combined (weight lifting + plyometric) training. J Strength Cond Res 24(9): 2440-2448, 2010
    4. Hackett D, Davies T, Soomro N, Halaki, M. Olympic weightlifting training improves vertical jump height in sportspeople: a systematic review with meta-analysis Br J Sports Med. 50, 865-872, 2016

    *この記事は、HPCコラムとしてNSCA JAPANのサイトに掲載していたものを再掲載したものです。

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