先日の記事では、継続的にトレーニング効果を引き出すために、期間ごとにトレーニングプログラムを変化させる「ピリオダイゼーション」について掲載しました。今回は、特に競技スポーツにおいてピリオダイゼーションのゴール地点となる「ピーキング」について紹介します。
「ピーキング」は主に、目標とする大きな大会の数週間前に行う、パフォーマンスを高めるための手段ですが、このピーキングの方法次第でパフォーマンスが大きく変わることが分かっています。
ピリオダイゼーションは、「筋肥大期」「筋力期」「パワー期」等といった期間に分解できます。一般的には、目標とする大きな大会に向かって「ピーキング」するために、逆算してこれらの期間を設定します。例えば、12月に大きな大会があるとしたら、1月から計画を立てていき、筋肥大、筋力、パワー、維持等といった形でプログラムを徐々に変化させながら、体力を向上させていきます。そして大会の数週間前から「ピーキング」という、大会で高いパフォーマンスを発揮するための調整をします。
そして、そのピーキングにおいてキーワードとなる重要な戦略が「テーパリング」というものです。
Mujika&Padillaはテーパリングを、「ある期間、トレーニング負荷を非直線的に減少することで、日常のトレーニングによる生理的、心理的ストレスを減らして競技パフォーマンスの最適化を目指すこと」と定義しています。図に示すフィットネス-疲労モデルは、テーパリングがパフォーマンスを向上させると考えられるメカニズムを説明するものです。このモデルは、トレーニングはふたつの後作用、すなわち、ポジティブな作用である「体力」と、ネガティブな作用である「疲労」をもたらすと仮定しています。このモデルにおいてパフォーマンスとは、ポジティブな作用(体力)の合計からネガティブな作用(疲労)の合計を引いたものと考えることができます。
一般に、トレーニングによる疲労の後作用は、体力の後作用よりも大きいですが、作用の持続時間が短い傾向にあります。したがって疲労がなくなっていくと、体力の後作用に対する疲労の後作用の影響がなくなり、パフォーマンスの向上が実現されるということになります。しかし長すぎる休息はパフォーマンスにとって有害であり、体力の後作用までもが減少して体力が低下する可能性があります。テーパリング期間は適切なバランスでトレーニングを実施することによって、疲労を最小化して体力を最大化することができます。
テーパリングを対象とした実験などの結果をまとめた表を見ると、瞬発的な項目から持久的な項目まで幅広くパフォーマンスが改善していることが分かります。
最適なテーパリング方法は継続期間が2週間程度で、強度と頻度を両方とも維持しながら、トレーニング量を指数関数的に41~61%まで減少させる方法であることがわかっています。特に重要な点は、トレーニングの頻度と強度(ウェイトトレーニングでの重量)は変えないものの、回数やセット数などの量を減少させることです。これにより、強度を保つことで高いパフォーマンスを維持しつつも、量を減らすことで疲労を抑えることに繋がります。
スポーツ現場でたくさんの監督やスキルコーチにテーパリングの概念をお話しすると、驚かれることが多くあり、「量をたくさんこなさないとトレーニング効果が出ないと思ってしまう。不安だ」と言われることがあります。日本のスポーツ現場では、ピーキング期にたくさんの量をやり込んでから疲労を抜くという方法が取り入れられていると聞くことがありますが、過剰な量をやり込むことにより体調不良や傷害のリスクが高くなってしまうので、できるだけ避けたいところです。
2017年のNSCA国際カンファレンスで講師として来日したDr.Inigo Mujikaが「1年間のサイクルで考えたときに、11カ月半、目標とする大きな大会でパフォーマンスを発揮するために努力してきたのに、最後の2週間のピーキングを間違えて、結局大会で高いパフォーマンスを発揮できないということは避けなければならない」と語っていたように、是非、ピーキングとテーパリングという考え方を取り入れていただければと思います。
NSCAジャパン機関誌2017年5月号p.44-55
『筋力の最大化に対するテーパリングの効果とメカニズム』
NSCAジャパン機関誌2011年7月号p.18-29
『ピリオダイゼーションの科学と実践:簡潔なレビュー』