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  • ユース年代の下肢間の非対称性とパフォーマンスの関係

    競技を続けていると利き手、利き足との関係から身体つきや筋の機能において左右差が現れてきます。今回は、サッカー選手の下肢に着目した研究をご紹介します。育成年代における左右差とパフォーマンスとの関係を知り、成長に応じたプログラムデザインとモニタリングの重要性が確認できます。

    はじめに

    サッカーは競技の特性上、利き足と非利き足の筋力差が出やすく、非対称性が大きい競技です。非対称性は傷害の一因となり得るとの研究報告もあり(2)、筋力やパフォーマンスの非対称性はアスリートにとって改善が必要なものであると言えます。サッカーにおいては競技年数が少ないほど非対称性が大きく、競技経験が長くなるにつれその非対称性は改善してくるとの報告もあります(1)。著者らは、競技経験が長くなることで自然と均等に四肢を使うように適応してくるためと推測しています。 

    今回紹介する研究は、アカデミー年代(16歳から23歳ぐらいまで)のエリートサッカー選手において、左右の非対称性がパフォーマンスに対してどのような関係性があるかを検証しています。これまでに筋力を指標とした報告がありましたが、今回の研究では垂直跳びの跳躍高を片脚ずつ計測しその数値から非対称性を評価しています。

    Jumping asymmetries are associated with speed, change of direction speed, and jump performance in elite academy soccer players  
    アカデミー年代のエリートサッカー選手において跳躍の非対称性はスピード、方向転換スピード及び跳躍のパフォーマンスに関連している。 

    Bishop, C, Brashill, C, Abbott, W, Read, P, Lake, J, and Turner, A. 
    J Strength Cond Res 35(7): p 1841-1847, 2021. 

    目的

    この研究の目的は、アカデミー年代の男子エリートサッカー選手の様々な年代における下肢間の非対称性を立証し、非対称性と身体的パフォーマンスの測定値との関連性を検証することである。

    被験者

    イングリッシュ・プレミアリーグのサッカーアカデミーに所属する51名の選手を23歳以下(U23:n=21)、18歳以下(U18:n=14)及び16歳以下(U16:n=16)に分けた。

    方法

    参加者は両側及び片側の反動を用いた垂直跳び、5m、10m及び20mのスプリント、そして505の方向転換スピードの測定を行った。すべての測定におけるばらつきは小さく(変動係数は2.5%以下)、信頼性は良好から優秀であった(クラス内相関係数=0.80~0.99)

    結果

    1方向の分散分析により、U23のグループは20mスプリントにおいてU16のグループよりも有意に速かった(2.90 vs 2.98秒;p=0.02;効果量=0.94)。グループ間のその他の有意な差は見られなかった。下肢間の非対称性は片脚の反動を使った垂直跳びによって評価し、グループ間における非対称性の大きさに有意な差はなかった。しかしながら、非対称性と身体パフォーマンスの測定値との間に複数の有意な相関が各年代において見られ、それらはスポーツパフォーマンスの減少を示唆していた。 

    表3.各年代における跳躍高の非対称性と身体パフォーマンス測定値のピアソンの相関係数

    結論・応用

    この研究結果は、アカデミー年代のエリートサッカー選手において下肢間の非対称性のスコアは年代を通して同等であったことを示し、5%の差でも跳躍やスプリント、そして方向転換のスピードにおける身体パフォーマンスの減少と関係性があった。この研究は、アカデミー年代のエリートサッカー選手において跳躍高の非対称性をモニタリングすることの重要性を示唆している。 

    まとめ 

    興味深いことに有意ではないが高い効果量が各年代間の非対称性の大きさ(U23 vs U16)において見ることができます。つまり、U16のグループにおいてより大きな非対称性がみられ、年代が上がることで非対称性が小さくなっていく傾向が見られました。これはFousekisらの報告(1)と一致しています。筋力だけでなく、垂直跳び高で表されるパワーも経験年数が少ないほうが非対称性は大きいようです。

    さらに、非対称性はパフォーマンスとの関係性があることもこの研究で示されました。非対称性の大きさとパフォーマンスの低さとが相関関係にあり、年代によってはr値が0.7以上と大きなものとなっています。また、表3をみるとU16における相関係数が大きくなっていることも見て取れます。

    これらのことから、サッカーなどの非対称性が顕著となるようなスポーツでは特に若年層において下肢間の筋力やパワーの非対称性が大きくなることを念頭においてトレーニングすることが、傷害の予防やパフォーマンス向上のために重要となってくると言えるでしょう。

    オリジナルの文献 

    The Journal of Strength & Conditioning Research
    Journal of Strength and Conditioning Research 35(7): p 1841-1847, July 2021. 

    参考文献

    (1) Fousekis, K., Tsepis, E., & Vagenas, G. (2010). Lower limb strength in professional soccer players: Profile, asymmetry, and training age. Journal of Sports Science and Medicine, 9(3), 364–373 
    (2) Kiesel, K. B., Butler, R. J., & Plisky, P. J. (2014). Prediction of Injury by Limited and Asymmetrical Fundamental Movement Patterns in American Football Players. Journal of Sport Rehabilitation, 23(2), 88–94 

    *この記事は、HPCコラムとして掲載したものを再掲載したものです。 

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