今回のウインタースポーツにおけるトレーニング、ピリオダイゼーション等のトピックは、アイスホッケーに関するものです。
スウェーデンやフィンランドなど世界ランク上位チームではリソースが充実していますが、そうではない国、あるいはレベルにおいてリソースの乏しい環境でも実施可能な氷上以外のトレーニングプログラムについて紹介いたします。
トレーニングプログラムを作成する上で、その競技に要求されることや競技の特性を評価する必要があります。記事ではアイスホッケーの生理学的分析・バイオメカニクス的分析・傷害分析が記されています。例えば、アイスホッケーでは運動中の心拍数が最大心拍数の約90%に達し、また選手は、試合時間の約20%をこの運動強度で過ごすことが明らかになっています。
アイスホッケーの試合中に起こるケガの原因として最も多いのは選手同士の接触です。なお、試合中に発生する傷害の上位3つは、膝内障(十字靭帯損傷など)・脳震盪および肩関節の靭帯損傷で、練習中に最も多いのは鼠径部の筋挫傷とされています。鼠径部の筋挫傷については股関節の内転筋群と外転筋群の筋のアンバランスが重要な因子と考えられており、これをトレーニングプログラムによって改善することが求められています。
体力テストで評価すべき項目としては、加速力・スピード・無酸素性および有酸素性パワー・上下半身の筋力・方向転換能力・および身体組成が挙げられています。なお氷上以外のテストで測定した下半身のパワーと、氷上でのスプリントスピードが関連していないことなどが明らかとなっているため、可能であれば体力テストは氷上と氷上以外の両方のテストで構成すべきとされています。
またアイスホッケーは、選手が防具を装着するという特性を有するため、氷上でのテストはなるべく防具をすべて装着した状態で実施することが望ましいとされています。
試合期(インシーズン)前の準備期(プレシーズン)には、まず安定した基礎体力を確立し、試合期に向けての耐性を高めることが目的とされています。具体的には総合的な筋力を向上させ、その後最大筋力を向上させるプログラムを実施します。
最大筋力トレーニングを実施すると、速筋線維の動員が高まり同時に拮抗筋が抑制されるため、その結果、筋収縮が強化されるとされています。またこの時期には、競技特異的な動作パターンに合致するエクササイズ、例えばスケーティングの筋の動員パターンに類似しているフロントスクワットや斜め45°方向へのダンベルランジなどが推奨されています。
量を減らした1週間のプログラムを実施したのち、パワーおよびパワー持久力(パワー発揮を繰り返し実施する能力)の向上を目的としたプログラムを実施します。パワー向上において重視されるのが、クリーンやスナッチなどのオリンピックリフティングですが、十分な指導を受けられない環境においては、より容易に習得できる、ミッドサイクリーンプル(大腿中央部あたりから動作を開始し、クリーンのようにバーベルをキャッチしない、オリンピックリフティングのバリエーション)などの導入が推奨されています。
競技シーズン中はプレシーズンに強化した筋力とパワーの維持に重点を置く必要があるため、都度量と強度を操作する非線形ピリオダイゼーションモデルが推奨されています。また量を減らしたプログラムや、筋肥大を目的としたプログラムを挟み込むことで、長い競技シーズンの間に生じがちな単調さを軽減させることが示されています。
記事にはニーズ分析の詳細やリソースの乏しい環境でも実施できる体力テストの具体的な種目例、年間ピリオダイゼーションの全体像などが示されています。アイスホッケーのシーズンは、年代やレベルによって多少異なる部分もあろうかと思いますが、プログラムの流れや推奨エクササイズなど、参考になれば幸いです。
NSCAジャパン2016年翻訳掲載分 Vol.23 No.1 p.50~58
原文 Strength & Conditioning Journal Vol36, No.6, 28-36