秋も深くなり、本格的に駅伝・マラソンシーズンが到来してきました。
本日は、そんな長距離ランナーにおける筋力トレーニング(ST)やプライオメトリックトレーニングの効果を紹介し、効果的なトレーニングの方法について考えてみたいと思います。
最大酸素摂取量が長距離走のパフォーマンスと関連していることはよく言われていますが、それ以外にもパフォーマンスと関連する因子があります。それは最近、耳にする機会も多くなってきている「ランニングエコノミー」という指標です。ランニングエコノミーは、一定の最大下速度で走る際の酸素消費量で示されます。
一定のスピードにおける酸素消費量が少ない選手ほどランニングエコノミーが高く、そのため有酸素性能力と乳酸性作業閾値に差はないけれど、ランニングエコノミーが劣る選手に比べて優れた選手は、より速く、より長い距離を走ることができると言われています。
また、ランニングエコノミーが優れている選手は、そうではない選手に比べてグリコーゲンがより保存できる可能性もあります。
そしてそのランニングエコノミーを改善するためには、適切なST、プライオメトリックトレーニングが推奨されます。
まず下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉:腓腹筋とヒラメ筋)は、レクリエーションレベルのランナーではランニングの総エネルギーコストの最大 40%、ハイレベルのランナーでは25%を占めるため、下腿三頭筋の筋力はランニングエコノミーと関連します。
加えて、下腿三頭筋はランニング中の前方推進力における最大の貢献者でもあり、その中でもヒラメ筋は主要な役割を担います。ランニング速度が増加すると、ヒラメ筋は速い速度で収縮して、足関節の底屈を素早く行ない接地時間を短縮します。
このことから両足もしくは片足でのシーティッドカーフレイズなど下腿三頭筋、特にヒラメ筋に焦点を合わせた膝を曲げた状態での足関節底屈エクササイズを実施することが大切になります。
続いて太もものハムストリングス、大腿四頭筋、お尻の大殿筋もランニングにおいて大きな役割を担います。大殿筋は股関節の伸展に重要な役割を果たし、ランニングに貢献します。ランニングにおける様々な局面でこれらの筋肉が動員され、発揮筋力を増加させます。その点において、バックスクワット、レッグプレス、デッドリフト、ランジなどの下肢のポステリアチェーン(下半身後面)の多関節エクササイズが有効とされています。
加えて、上記の筋群を鍛えるほか、ランニングエコノミーを改善するために、STの他にジャンプ系種目を中心としたプライオメトリックトレーニングも有効です。
例えば、一般的なカウンタームーブメントジャンプ、ジャンプスクワット、 ハードルジャンプ、ホップ、ドロップジャンプなどが含まれます。
参考文献によると、アスリートがSTを実施する際の障壁として挙げたのは時間的制約でした。これはランナーがすでに大量の持久系トレーニングを実施していることに起因しています。ただランニングエコノミーを改善するSTプログラムは、短い時間(30~60 分)で実施できると思われ、取り入れられるのではないかと思いますので、時間の使い方が一つのカギとなります。
また持久系競技の場合、STも持久力向上のために高回数で行うというやり方がみられますが、あくまでSTによる目的(筋力向上なら低回数)を理解したうえで、回数やセット数を設定することが望ましいと考えられます。
長距離ランナーのためのトレーニングプログラム例。紹介したように下半身を中心に鍛えますが、種目や負荷については各個人の体力に合わせて無理のないように設定しましょう。
また、ランニングとSTのスケジューリングを考慮することも大切で、ランニングトレーニングとSTの組み合わせ次第では、思った効果が得られないこともあります。これについてはまたの機会に紹介したいと思います。
今回は以上です。是非、長距離ランナーの方は効果的に筋力トレーニングを実施してみていただければと思います。
NSCAジャパン2018年翻訳掲載分 Vol.25 No.2 p.44~54
原文Strength & Conditioning Journal Vol37, No.2, 1-12
NSCAジャパン2022年翻訳掲載分 Vol.29 No.9 p.19~31
原文Strength & Conditioning Journal Vol44, No.1 1-14