
「筋トレを頑張っているのに疲労が抜けない」「試合終盤でパフォーマンスが落ちる」―― その原因の一つが、食事の「脂質の質」かもしれません。オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)は、回復促進・持久力強化・炎症抑制を通じて、トレーニング効果を底上げする栄養素として科学的に注目されています。
オメガ3脂肪酸には、植物性のα-リノレン酸(ALA)と、主に青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)・DHA(ドコサヘキサエン酸)があります。体内でALAからEPA・DHAへの変換は行われますが、その変換率は極めて低く(EPAへ5〜10%、DHAへ2〜5%程度)、ハードなトレーニングを続けながら必要量を食事だけで補うのは難しいのが現状です。
EPA・DHAを効率よく摂れる食品の代表は青魚です。サバ1切れ(可食部70g)ならEPA約480mg+DHA約680mgが摂取でき、後述する1日の追加目標量をほぼカバーできます。脂の乗った青魚(サバ・サンマ・イワシ)を週3〜4回の食事に取り入れるだけで、食事ベースのオメガ3対策になります(下表・図2参照)。


それでも現実は厳しいものがあります。NCAA(全米大学体育協会)ディビジョンIのフットボール選手404名を調査したところ、体内のオメガ3ステータスを示す「オメガ3指数(O3i)」の目標値(8%以上)をクリアした選手は一人もおらず、平均値はわずか4.4%でした(図1)。食事管理をしているエリート選手ですら、オメガ3は慢性的に不足しているのが実態です。

摂取したEPA・DHAは筋肉の細胞膜に取り込まれ、膜の柔軟性を高めます。すると赤血球が毛細血管を通りやすくなり(赤血球変形能の向上)、同じ運動強度でも、少ない酸素量で体を動かせるようになります。これを「運動経済性の改善」と呼びます。長距離走やサイクリングなど持久系トレーニングの「スタミナ」に直結する変化です。
実際に、1日EPA 140mg・DHA 560mgという少量の摂取でも、運動中の平均心拍数の低下と、運動後の心拍回復(Heart Rate Recovery)の短縮が確認されています。「同じメニューなのに最近きつく感じる」という場合は、オメガ3不足が一因かもしれません。
ラグビー・格闘技・アメリカンフットボールなど、頭部へ繰り返し衝撃を受けるスポーツでは、脳への慢性ダメージが問題となります。
ISSNの最新ポジションスタンドは、オメガ3の予防的摂取が脳細胞を保護する可能性を指摘しています。DHAは脳細胞膜の主要成分であり、シーズン前から補充しておくことが衝撃への備えとなる可能性があります。
激しいトレーニングの後、体内では炎症反応が起きます。オメガ3の摂取量が増えると、炎症を引き起こすサイトカイン(炎症誘発性化合物)が減少することが示されており(Calder 2002)、遅発性筋肉痛(DOMS)の軽減と、激しい運動後の筋力低下の抑制に効果が報告されています。「筋トレ翌日の痛みを和らげ、次のセッションへ早く戻る」ための栄養サポートとして、ぜひ活用してみてください。
また、腱・靱帯の慢性障害への効果も報告されています。理学療法にEPA・DHA・γ-リノレン酸(GLA)を含む必須脂肪酸と抗酸化物質を組み合わせた無作為化二重盲検試験では、治療群が対照群と比べて痛み軽減率(99% vs. 31%)とスポーツ活動量(42%増)で大きな改善を示しました(Mavrogenis et al. 2004;Wein & Sieloff 2011)。慢性的な腱の痛みを抱えている方は、食事やサプリメントでのオメガ3強化を検討してみてください。
なお、若年アスリートではオメガ3単独での筋肥大効果は限定的ですが、タンパク質摂取量が1日1.2g/kg未満と不足気味な場合は筋量維持に寄与する可能性があります。プロテインと組み合わせることで、より効果的な体づくりが期待できます。
オメガ3は睡眠ホルモン(メラトニン)の合成に関わり、深い眠りによる回復を後押しします。また、腸内の有益菌を増やして酪酸の産生を高め、高強度運動時に起きやすい腸管バリア機能の低下(リーキーガット)を防ぐ働きも報告されています。
「練習後に胃腸が不調になる」「寝ても疲れが取れない」という悩みがある方は、食事のオメガ3を見直してみてください。
オメガ3の主な摂取源は以下の3種類です。
フィッシュオイル
最も研究例が多く、脂質と一緒に摂ると吸収率が高まります。
クリルオイル
南極オキアミ由来で、リン脂質型EPA・DHAで吸収効率が良いとされています。
藻類オイル
植物性で重金属リスクが低く、特にDHAの補給に向いています。
食事からの摂取だけでは不足する場合、1日にEPA+DHAを合計約1.4g追加摂取することが目安です。細胞膜に取り込まれるまでに時間がかかるため、少なくとも4週間、できれば数か月の継続が変化を実感するポイントです。
オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)は、持久力・回復・炎症抑制・睡眠・腸内環境と、トレーニングを取り巻くあらゆるコンディションに関わる栄養素です。まずは青魚を食卓に増やすことから始め、それだけでは補いきれない場合はサプリメントも活用しながら、継続的に「脂質の質」を意識してみてください。

Wein D, Sieloff S. 筋傷害からの回復に有効な栄養素 (Nutrients for Recovery from Muscle Injury). NSCA JAPAN, Vol. 18, No. 5, pp. 59-60. 2011. (原典: NSCA’s Performance Training Journal, Vol. 7, No. 1, pp. 17-18)
Heileson JL, et al. The Effect of Omega-3 Fatty Acid Supplementation on the Omega-3 Index in NCAA Division I Football Athletes. J Diet Suppl. 2021;18(3):245-257.
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Mavrogenis S, Johannessen E, Jensen P, Sindberg C. The effect of essential fatty acids and antioxidants combined with physiotherapy treatment in recreational athletes with chronic tendon disorders: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Phys Ther Sport, 5(4):194-199. 2004.