
「膝をつま先より前に出すな」——そう教わったことはありませんか?しかし、そのフォームはもしかすると、別の部位に負担をかけているかもしれません。
この記事では、膝の位置と関節への力のかかり方を比較した研究をご紹介します。
「膝がつま先より前に出ないように!」
スクワットを行っている時、このような指示を聞いたことはありませんか?今回ご紹介する研究では、膝の前方への移動が、エクササイズ中の各関節のトルクにどのような影響を与えるのかを検証しています。
同じスクワットというエクササイズでも、身体の一部分の動作が異なることでどのような影響が出るのでしょうか?
Effect of Knee Position on Hip and Knee Torques During the Barbell Squat
バーベルスクワットにおける膝のポジションが股関節及び膝関節へ与える影響
Fry, AC, Smith, JC and Schilling, BK
J Strength Cond Res 17(4): 629–633, 2003
バーベルスクワット時に、下腿を可能な限り垂直に維持することで、膝がつま先よりも前に出ないようにすることが推奨されることもある。
本研究は、膝の前方移動が制限されている場合と制限されていない場合で、スクワット時の関節キネティクスを比較した。
*キネティクス:運動に伴う力学的指標(関節トルクなど)
7名のウェイトトレーニングを行う男性(年齢:27.9±5.2歳)。ハイバーのパラレルスクワットで、少なくとも体重の1.5倍を挙上できる人。
被験者は2種類のパラレルバーベルスクワット(重量=体重と同等)の試技中に、ビデオテープで撮影された。
膝がつま先を超えて前方に移動してもよい(制限なし)場合と、つま先前に板を立てることで膝のつま先を超えての前方移動を制限した(制限あり)場合の2種類を行った。動作中の股関節と膝関節の関節トルクが計算で求められた。

両スクワットにおける静的な膝関節と股関節の間のトルク及び、両スクワット間に差異が見られた(p<0.05)。
制限なしのスクワットの場合、膝関節トルクは150.1±50.8 Nmであり股関節トルクは28.2±65.0 Nmであった。制限ありのスクワットでは、膝関節が117.3±34.2 Nmで股関節が302.7±71.2 Nmであった。
制限ありのスクワットは、制限なしのスクワットと比べて胴体の前傾がより大きく、下腿が垂直に近く、また膝及び足関節の屈曲角度が小さかった。


使用されるスクワットのテクニックは膝関節と股関節間の力の配分及びエクササイズの動作(関節角度)にも影響を与える。膝の前方移動を制限すると膝関節への負荷は減るが、その分の力が股関節や腰部に過度に転嫁される可能性がある。
したがって、このエクササイズ中の適切に関節へ負荷をかける場合は、膝がつま先を少し超えて前方へ移動することが必要であろう。
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この研究の著者も述べている通り、適切に各関節へ負荷を分配したい場合は、膝が少し前へ出ることが必要になってくるでしょう。身長や各部位の長さ(特に大腿部)、筋力や障害などによって適宜フォームを変更していくことが大切であると言えます。
たとえば、膝を前に出さないスクワットでは、確かに膝関節のトルクが減少しましたが、股関節へのトルクが大きく増加しました。そのため、股関節や腰部の障害を抱える人にはこのようなタイプのスクワットは適していないと言えるでしょう。
スクワットのフォームは個人差(体格・大腿長・筋力・既往など)に応じて調整すべきだと言えるでしょう。