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  • 速さと機敏さが勝敗を分ける?バレーボールのアジリティとトレーニング戦略

    バレーボール女子の世界選手権が閉幕し、今度は男子の世界選手権が開幕しました。今回は、前回の記事に続き、女子バレーボール選手について、スピード&アジリティ、競技パフォーマンスやコンディショニングの観点から紹介したいと思います。

    スピードとアジリティ

    バレーボールでは、守備・攻撃を問わず、ほとんどのプレーにおいてアジリティとスピードが欠かせません。研究によると、ストレングストレーニングやプライオメトリックスだけでは十分ではなく、特異的なドリルを組み込む必要があると報告されています。

    NCAA女子選手を対象とした研究では、12週間にわたる筋力、持久力、プライオメトリックスを組み合わせたプログラムの実施後、10ヤードや40ヤード走の成績は変化せず、アジリティテスト(Tテスト)の結果がむしろ低下しました。これは、プログラム中にスピードやアジリティに特化したドリルが欠けていたためと解釈されています。

    一方で、プレシーズンにおいて練習量と休養のバランスを適切に調整したケースでは、シーズンを通してアジリティの成績が向上しました。過剰な練習負荷がパフォーマンス低下を招く一方、適切な負荷管理が成果につながることが示唆されています。

    最後に、同一のディビジョンで勝ったチームと負けたチームを判別する要因を評価する判別分析の結果、アジリティが重要な判別因子であることが明らかになりました。このことからアジリティ要素を鍛えることは、バレーボールにおけるパフォーマンス発揮に重要であることが示唆されます。

    コート上の代謝特性

    試合中の身体的要求について、心拍数を調べた研究では、女子選手の平均心拍数は約139拍/分で、乳酸値の変化は小さく、試合中のエネルギー供給の多くがホスファゲン系に依存していると考えられています。このことからも、バレーボールは特にダイナミックで爆発的なパワーを必要とするスポーツであることが想像できます。

    ただし、女子バレーボールに関するこの領域の研究は十分に行われておらず、今後さらに研究の蓄積が必要です。実際の試合に即した活動データが増えることで、より競技特性に適合したトレーニングプログラムを設計できるようになると期待されます。

    バレーボールのためのコンディショニング

    効果的なS&Cプログラムを構築するためには、基礎的なS&Cエクササイズに加えて、競技特性を踏まえたエクササイズの導入が大切になります。

    バレーボールでは、横方向への動作が多い一方、大多数のストレングスエクササイズは矢状面で行なわれます。したがってS&Cコーチは、プログラムに、ラテラルスクワットやサイドランジなどのエクササイズを取り入れる必要があります。また、ラテラルボックスジャンプやラテラルバウンドなどの横方向のプライオメトリックエクササイズも取り入れることが重要です。さらに片脚や片腕でのプレーも多く、この点におけるバランスとボディコントロールを改善するため、ダンベルトレーニングも重要な一部として考える必要があります。

    同様に、バレーボールの試合では、走る、捻る、ジャンプするなどの運動が要求され、それらの運動では背部に大きな負荷が生じるため、体幹のトレーニングは不可欠です。通常、体幹のエクササイズは仰臥位で行なわれことが多いですが、競技特性を踏まえ、立位でのエクササイズにプログレッションすることを検討してもよいでしょう。強い体幹からは強力な上半身の筋力が生まれ、強力な上半身は、より高速のスパイクを達成でき、また、バレーボールの試合中にストレスのかかる肩関節の傷害を予防します。

    最後に、トレーニングでは、試合の最も重要な要素の1つであるジャンプ能力の向上も目指さなければなりません。

    まとめ

    前回の投稿と合わせて、バレーボール選手の指導にあたるS&Cコーチに向けて、いくつかの実践的示唆が得られています。まず、トレーニング量や休養を適切にモニタリングし、非機能的オーバーリーチングやオーバートレーニングを防ぐことが重要です。また、伝統的なレジスタンストレーニングに加え、爆発的トレーニングを取り入れることで、ブロックやスパイクなど競技に直結するパフォーマンスを向上させることができます。さらに、アジリティやスピードトレーニングを効果的に組み込むことも大切となります。

    トレーニング経験の浅い選手に対しては過度なジャンプトレーニングを避け、基礎的な筋力やテクニックの習得を優先する必要があります。加えて、膝蓋腱炎などの障害はジャンプトレーニングの量や練習環境に影響されやすいため、練習サーフェスの選択も考慮しなければなりません。

    参考文献

    NSCAジャパン2012年翻訳掲載分Vol 19, No9, 54-64

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