マラソンシーズン到来!
今回は陸上競技の国際競技連盟であるワールドアスレティックスが公認している距離種目のレース時の栄養戦略に関する文献をもとに、ロードマラソンの栄養戦略について、科学的な戦略を立てることに加えて、個人の体調や経験を考慮に入れたより実践的なアプローチを紹介します。
筋グリコーゲンの枯渇がレースパフォーマンスを制限する主要な要因なり得るマラソンでは、炭水化物を補償することでレース前に体内のグリコーゲン貯蔵量を最大限に高める方法が有益です。
現代で推奨されている方法は、レースの36〜48時間前から体重1kgあたり1日10〜12gの炭水化物を摂取するというものです。
これは、1960年代に考案された初期のカーボローディングを短縮したものであり、レース後半のスピード低下を抑制し、パフォーマンスを向上させることが示されています。
カーボローディングのポイント
レース当日は、朝食で肝臓のグリコーゲンを補充し、レース中も持続的にエネルギーを供給することが重要です。また、レース直前のウォームアップ中にスポーツジェルやドリンクを少量摂取することも有効です。
レース中の炭水化物摂取はパフォーマンス向上に大きく貢献します。特にフルマラソンなどの長時間イベントでは、体内の貯蔵エネルギーが減少する中で、継続的にエネルギー源を供給することが求められます。
レース中のエネルギー補給ガイドライン
長時間のレースや暑い環境下でのランニングでは、汗による水分損失がパフォーマンスに悪影響を及ぼします。体重の2〜3%以上の水分不足は、体温の上昇や疲労感の増加につながります。
レース中の給水ポイントでは水分を摂取しにくい場合があります。そのため、個々の汗の量やレース環境に合わせて、水分と炭水化物の摂取を最適化する個人的な計画を立てることが推奨されます。
暑いレースでは、ハイパーハイドレーション(過剰水分補給)によって事前に水分不足に備えることも有効ですが、 一方で、特に市民ランナーの中には、汗の量以上に水分を摂取しすぎて「低ナトリウム血症」になる危険性があるため注意が必要です。
数あるサプリメントの中で、長距離走のパフォーマンス向上に科学的根拠があるとされるのはごく一部ですが、以下に活用例を記します。
カフェイン
カフェインは、疲労感や痛みの知覚を鈍らせ、注意力を高める効果があります。レース前やレース中に体重1kgあたり3〜6mgを摂取することが推奨されます。ただし、炭水化物と併用した場合、その効果は単独使用時より減少する可能性があります。
硝酸塩
硝酸塩も、長距離走のパフォーマンスを向上させる可能性が示唆されています。
クレアチン
クレアチンにはグリコーゲン貯蔵量を増やす効果があるため、長距離レースの炭水化物摂取量を増やすのに役立つかもしれません。しかし、これによる体重増加も考慮する必要があります。
どのサプリメントも、個人の体質やトレーニング内容に合わせて、計画的に使用することが重要です。
よく報告される胃腸症状には、胃の痛みやけいれん(42%)、腸の痛みや不快感(23%)、差し込み(22%)、便意(22%)、膨満感(20%)などがあります。全体的に、若いアスリート、特に女性に胃腸症状が多く見られます。
レース中に胃腸の不調を避けるため、実際のレースで使う補給食やドリンクをトレーニング中に試して、自分に合った補給プランを確立することが不可欠です。
マラソンのレース前の食事で最も大事なことは、「エネルギー源の確保」と「胃腸への負担軽減」を両立させることです。この2つのポイントを意識することが、マラソンで最高のパフォーマンスを発揮するための食事の鍵となります。
1.Burke LM, Jeukendrup AE, Jones AM, Mooses M. Contemporary Nutrition Strategies to Optimize Performance in Distance Runners and Race Walkers. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2019;29(2):117-129.
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