• スポーツ・健康
  • けがをしたときの栄養

    運動にけがはつきもの。またブランクがあると、けがの発生頻度が高まる傾向があります。筋力や柔軟性、持久力などが低下し、体が運動に適応できない状態になってしまうためです。急に激しい運動を再開すると、筋肉や関節に過度な負担がかかり、捻挫や肉離れなどのけがを引き起こしやすくなります。
    今回は、2020年にJournal of athletic trainingにて発表された、けがの回復とリハビリテーションを促進するための栄養戦略の論文をご紹介します。栄養摂取が従来の治療と併用することでケガからの回復を促進し、リハビリテーションをより効果的に進める可能性があります。

    手術を受けることになってしまったら・・・

    もし、手術を伴うけがをしてしまった場合、手術前の栄養状態は術後の回復に大きく影響を与えます。近年の研究では、従来の「手術前の絶食」は厳格である必要がなく、むしろ適切な栄養摂取が手術後の回復を促進する可能性が示されています。例えば、手術前の炭水化物摂取(前夜100g、手術2時間前に50g)は、術後のインスリン抵抗性を軽減し、筋肉量の減少を抑える効果があるとされていて、特に、複合炭水化物や必須アミノ酸を含む飲料の摂取が有効と考えられます。

    リハビリ期の食事のポイント

    エネルギー需要の増加
    手術や負傷後、基礎代謝率(BMR)は増加し、エネルギー需要が高まります。傷害の重症度に応じて、エネルギー消費量は20~100%増加する可能性があります。エネルギー摂取を減らすと、筋肉量の減少が進み、回復が遅れるため、適切なエネルギー補給が必要です。 

    タンパク質の必要性
    傷害後のアミノ酸需要は大幅に増加します。傷の治癒、組織の再構築、血糖管理のためには、高タンパク質の食事が不可欠です。特に、リハビリ期には1.6~3.0 g/kg/日のタンパク質摂取が推奨されます。ロイシンは筋タンパク質合成の重要な因子であり、摂取するタンパク質の種類として、鶏肉、牛肉、魚、乳製品などが推奨されます。 

    糖質と脂質の役割
    糖質は免疫機能やホルモン調整に関与し、回復プロセスをサポートします。また、でんぷんなどの多糖類や食物繊維を含む複合炭水化物は血糖値の安定化に寄与し、エネルギー供給を持続的に行います。推奨される糖質摂取量は、体重1kgあたり3~5g(総エネルギーの55%)です。
    脂質に関しては、オメガ3脂肪酸(魚、ナッツ、亜麻仁油など)が炎症を抑えるため、適量の摂取が勧められます。 

    栄養摂取のタイミング
    栄養摂取のタイミングは、回復の質に影響を及ぼします。リハビリセッションの前後に適切な栄養摂取を行うことで、筋力、機能、除脂肪体重の改善が見込めます。特に、リハビリ前後のタンパク質・糖質摂取が、筋肉の回復と機能回復に有益です。 

    サプリメントの活用

    適切なサプリメントの使用は、けがからの回復を促進し、筋肉損失を軽減する可能性があります。推奨されるサプリメントには以下が含まれます。 

    • クレアチンモノハイドレート: 筋肉量の維持と回復を促進する。 
    • オメガ3脂肪酸: 炎症を抑え、神経損傷を軽減する。 
    • HMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸): 筋肉の分解を抑え、合成を促す。 
    • ビタミンD: 骨の健康をサポートし、免疫機能を向上させる。 

    サプリメントを選ぶ際は、アンチドーピングを徹底し、第三者機関の認証を受けた製品を選ぶことが推奨されます。 

    外傷性脳損傷(TBI)に対する栄養介入

    脳損傷後は、神経炎症、酸化ストレス、エネルギー代謝の異常が発生します。研究によると、オメガ3脂肪酸(40mg/kg/日)、クルクミン(100mg/kg)、クレアチン(0.4g/kg/日)の摂取が神経損傷を軽減し、認知機能を改善する可能性があります。ただし、カフェインは回復を遅らせる可能性があるため、摂取を控えるべきです。

    まとめ

    栄養管理は、負傷後の回復を促進し、リハビリの成功率を向上させる重要な要素です。適切なカロリーと栄養素の摂取、適切な栄養補助食品の活用、摂取タイミングの調整を行うことで、筋肉損失を最小限に抑え、安全な復帰を目指すことができます。アスレティックトレーナーや理学療法士は、リハビリの一環として栄養指導を行い、必要に応じて管理栄養士への相談をしましょう。今後、栄養介入が標準的なケアとして取り入れられることが期待されています。

    引用文献

    Smith-Ryan AE, Hirsch KR, Saylor HE, Gould LM, Blue MNM. Nutritional Considerations and Strategies to Facilitate Injury Recovery and Rehabilitation. J Athl Train. 2020;55(9):918-930. doi:10.4085/1062-6050-550-19

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