トレーニングをする際、様々な変数を調整して、目的とする効果を狙います。通常レジスタンストレーニングでは、トレーニング強度(重さなど)や量(回数およびセット数)、休息時間、頻度、順序などを設定します。しかし、動作の可動域はどれくらい意識されているでしょうか?今回は、トレーニング動作中の可動域に意識を持つことで得られる効果、可能性について研究論文から紹介します。
ストレッチは筋の柔軟性や関節可動域の向上を主な目的とします。しかし、静的ストレッチは、柔軟性を向上させる一方で、長時間(60秒以上)のストレッチが急性的なパワー発揮の低下という負の影響を及ぼすこともわかっています(1)。また、トレーニング前に静的ストレッチを行う場合と行わなかった場合とを比較して、トレーニングボリュームの低下や筋肥大の効果が減少するといったことも報告されています(4)。
レジスタンストレーニングは、一般的に筋力の向上や筋肥大を主な目的として行われますが、柔軟性を向上させる効果もあるとの研究報告があります(2,3)。レジスタンストレーニングとストレッチについて、柔軟性や可動域を向上させる効果を示したエビデンスは多く存在しますが、これらのトレーニング形態を直接比較した研究は多くありません。
今回紹介する研究は、レジスタンストレーニングとストレッチのそれぞれのトレーニングが柔軟性と筋力に及ぼす効果を比較しています。
Resistance training vs. static stretching: Effects on flexibility and strength.
レジスタンストレーニングvs静的ストレッチ:柔軟性と筋力に対する効果
Morton, SK, Whitehead, JR, Brinkert, RH, and Caine, DJ.
J Strength Cond Res 25(12): 3391–3398, 2011
この研究の目的は、トレーニングを行なっていない成人において可動域をフルに使ったレジスタンストレーニング(RT)が同じ筋−関節複合体の静的ストレッチ(SS)と比較して、柔軟性と筋力にどのような効果を与えるかを検証することである。
36名の健康な成人男女(年齢:21.92±3.64歳、体重:69.39±3.54 kg、身長:174.42±34.01 cm)
参加者は無作為にRTまたはSSのトレーニンググループに分けられた。不活動のグループをコントロール群(CON)とした。ハムストリングの伸長、股関節の屈曲と伸展、肩の伸展の柔軟性および、大腿四頭筋とハムストリングの最大トルクを事前に測定したあと、被験者は同じ筋−関節複合体における同様の動作と可動域でストレッチまたは筋力向上を目的とした5週間のトレーニングを行った。その後、柔軟性と筋力の事後測定を行った。
ハムストリングの柔軟性、股関節の屈曲および伸展の可動域の向上にRT群とSS群間での差異はなかったが、両群ともCON群の値よりも大きかった。肩関節伸展の柔軟性に群間の差異はなかった。RT群はCON群と比較して膝関節伸展の最大トルクが大きかったが、膝関節屈曲の最大トルクには群間の際は見られなかった。
この予備研究の結果からは、入念にプログラムされた可動域をフルに使ったRTは、コンディショニングプログラムに用いられる典型的なSSと同じくらい柔軟性を向上させることができることを示唆している。これらの結果にストレングス&コンディショニングプログラムに対する潜在的で実用的な意義があることから、本実験デザインより大きなサンプル数、そしてより長いトレーニング期間を用いたさらなる研究が、この結果を追認または否認するために行われるべきである。
この研究では、柔軟性に対して静的ストレッチとレジスタンストレーニングは同等の効果があることが示されました。またこの研究で重要なのは、レジスタンストレーニングにおいて可動域をフルに使ったことです。特異性の原則やSAID(Specific Adaptation to Imposed Demand)の原則から、身体の適応は与えられた刺激に対して特異的であるとされています。
高齢者を対象とした研究では、負荷をかけた場合に関節の動作範囲が狭まり、結果として負荷をかけない場合と比較して可動域の向上が低下したとの報告もあります(5)。したがって、レジスタンストレーニングによって柔軟性も合わせて向上させたい場合は、エクササイズにおいてできる限り大きな可動域で行うことが重要となるでしょう。
静的ストレッチは、その使用方法やタイミングによってはトレーニング効果を減少させたり、急性的に負の影響を与えたりするとされています(1,4)。静的ストレッチには柔軟性の向上の他に筋をリラックスさせる効果(6)などもありますが、レジスタンストレーニングによって柔軟性の向上に対して同等の効果が見込めるようであるならば、柔軟性獲得のためだけに静的ストレッチを追加する必要はないでしょう。
実際に行ったレジスタンストレーニングやストレッチの方法、測定方法などご覧になりたい方は下記アドレスよりオリジナルの文献をご確認ください。
The Journal of Strength & Conditioning Research
Journal of Strength and Conditioning Research 25(12): p 3391-3398, December 2011.
1. Kay, A.D., Blazevich, A.J (2012) Effect of Acute Static Stretch on Maximal Muscle Performance, Medicine & Science in Sports & Exercise, 44(1), 154-164
2. Santos, E., Rhea, M., Simão, R., Dias, I., De Salles, B.F., Novaes, J., Leite, T., Blair, J.C., and Bunker, D.J. (2010). Influence of moderately intense strength training on flexibility in sedentary young women. Journal of Strength and Conditioning Research 24, 3144–3149
3. Faigenbaum, A. D., McFarland, J. E., Keiper, F. B., Tevlin, W., Ratamess, N. A., Kang, J., & Hoffman, J. R. (2007). Effects of a short-term plyometric and resistance training program on fitness performance in boys age 12 to 15 years. Journal of sports science & medicine, 6(4), 519–525.
4. Junior, R.M., Berton, R., de Souza, T.M.F., Chacon-Mikahil, M.P.T., and Cavaglieri, C.R. (2017). Effect of the flexibility training performed immediately before resistance training on muscle hypertrophy, maximum strength and flexibility. European Journal of Applied Physiology 117, 767–774
5. Raab DM, Agre JC, McAdam M, Smith EL. (1988) Light resistance and stretching exercise in elderly women: effect upon flexibility. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 69(4), 268-272
6. Prentice, W.E. (1982). An electromyographic analysis of the effectiveness of heat or cold and stretching for inducing relaxation in injured muscle. Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy 3, 133–140