先月に引き続き、ウインタースポーツに関するトレーニング、ピリオダイゼーション等のトピックに関する記事をご紹介いたします。
今回取り上げる競技はスピードスケート。この競技に関する文献は限られていますが、この記事では短距離(500m、1000m)と中距離(1500m)種目にフォーカスした内容が掲載されています。
スピードスケートのレースのスタート局面は陸上トラック種目のスタートに似ているとされています。選手はスタート直後から加速するため、最初に大きな力発揮が必要です。その後、ストロークは高速で膝関節を伸ばす動作を伴う滑走動作へ移ります。体幹はスタート時の比較的直立した姿勢から、より水平な姿勢へと徐々に変化し、第1コーナーの加速に備えます。そしてコーナーを抜けると、ストロークは滑走・プッシュオフ・足のひきつけという3つの局面となります。ここでは側方へのプッシュ動作によって前方への推進力を生みだすため、膝関節と股関節の動作が重要です。
他競技(400m短距離走、クロスカントリースキーなど)と比較して、スピードスケート選手の太ももの筋量が大きいことは研究でも示されており、これはストロークの繰り返しが影響しているものと考えられます。
トレーニングプログラムを適切に評価するためには、包括的なテストを計画することが必要です。スピードスケートに関連の高い評価項目は身体組成・下半身のパワー・下半身の筋力・無酸素性パワー・無酸素性能力および有酸素性パワーとされています。
なおテストを実施する際には、疲労度の低いテスト(身体組成、ジャンプテストなど)から疲労度の高いテスト(無酸素性および有酸素性能力)へと順番に実施することが推奨されています。
トレーニングにおいては神経筋と代謝の適応がポイントとなります。
前者については筋力やパワーに関連する要素を向上させます。垂直跳びのパワーとスピードスケートのパフォーマンスには関連があることがわかっているため、パワーや力の立ち上がり率・反応筋力等を高めるために、プライオメトリックトレーニングやスプリントトレーニングが有効とされています。
一方後者については、高強度で短時間のトレーニング、低強度で長時間のトレーニングを用いて、競技に最適な刺激を与えていく必要があるとされています。
スピードスケート選手のトレーニングプログラムを作成する上でも、ピリオダイゼーションの概念は重要です。
先に示したように筋力やパワーを向上させていくためには、それらの基盤となる筋持久力の向上を最初の目標とします。その後シーズンに近づくにつれ、全体的な力発揮能力の増大を通じて長くなる氷上トレーニングの距離に合わせて加速する能力を強化していきます。
記事には具体的なトレーニングプログラム例のほか、詳細や競技特性、また起こりうる傷害についても示されています。実際にこの競技に携わっているコーチ、選手、トレーニング指導者に向けた記事ではありますが、シーズンを迎える競技のより詳しい情報に触れることで、観戦する際の見方も変わってくるかもしれません。ぜひ参考にしてみてください。
NSCAジャパン2023年翻訳掲載分 Vol.30 No.1 p.37~46
原文 Strength & Conditioning Journal Vol44, No.3, 1-10