これからの季節になると、駅伝シーズンに向けて各大学の駅伝チームが高地で合宿を行うといったニュースを目にする機会も多くなるのではないでしょうか。また、米国NSCA本部も数々のアスリートが合宿をした場所で有名なボルダーと同じコロラド州にあります。今回の記事では、高地トレーニングへの関心が高まった背景や期待される効果、注意点について紹介します。
1960年代、エチオピアのアベベ・ビキラ選手の活躍が高地トレーニングに注目を集めました。標高約2,400メートルの首都アディスアベバで練習を積んだアベベ選手は、1960年のローマ五輪と1964年の東京五輪で2大会連続してマラソンの金メダルを獲得。
また、1968年のメキシコ五輪では、日本の君原健二選手が高地練習を経て銀メダルを獲得し、その効果が再確認されました。その後は女子マラソンの高橋尚子選手や水泳の北島康介選手など、多くのメダリストが高地トレーニングを取り入れたことも、人気を後押ししました。
近年では人工的に低酸素環境を作るトレーニング施設が増えたことで、陸上や水泳などの持久系アスリートだけではなく、サッカーや野球などの球技系アスリートにも取り入れられるようになりました。
酸素濃度の低い場所に滞在することによって身体を適応させ、血液を増やし生理的な機能が向上した身体で平地に降りることで、楽に運動できるようになるというのが高地トレーニングの基本的な考え方となります。
日本では、ナショナルトレーニングセンター高地トレーニング強化拠点になっている飛騨御嶽高原高地トレーニングエリアや蔵王坊平アスリートヴィレッジで、よくアスリートが合宿をしています。
高地トレーニングでは、主に以下のような方法があり、目的に応じてトレーニングを行うことができます。
・リビング・ハイ-トレーニング・ロウ(LHTL)
高地に滞在し、低地でトレーニングする方法
・リビング・ハイ-トレーニング・ハイ(LHTH)
高地に滞在し、高地でトレーニングする方法
トップアスリートの場合は、1ヵ月以上高地に滞在しトレーニングを実施するのが一般的ではありますが、体への低酸素刺激が十分に確保できる標高とトレーニングの強度および量の組み合わせによっては3 泊や場合によっては 2 泊程度の短期間でも血液性状の変化を伴わずにその後のパフォーマンスに良い効果をもたらすコンディショニング・高地トレーニングになりうることが示されています。
そのため実際のスポーツ現場でもインカレなど重要な試合の前に短期間の高地トレーニングを取り入れている学生アスリートが多くいます。
高地トレーニングの効果として良く知られているのは持久力(有酸素性能力)の向上がありますが、その他にもハイ・ミドルパワー(無酸素性能力)の向上といったメリットがあります。
上記のように、高地トレーニングには様々な効果を期待することができ、持久系アスリートのみならず、無酸素性能力を必要とする球技系アスリートなど、多岐にわたるアスリートに対するトレーニングとして活用の幅が広がってきています。
平地でのトレーニングと異なり、体調管理も難しくコンディションを維持することが困難となる場合が多く、特に注意すべき点としては、「トレーニングの質的、量的低下」が挙げられます。
その要因として、高地滞在を伴う場合は常に低酸素状態に体がさらされており、疲労からの回復も平地より時間を要することが考えられます。 そのような状況からトレーニングの質や量が低下する、あるいは、抑えざるをえない状況ともあり、ディトレーニング(トレーニングをする前のレベルまで低下すること)に似た状況となり、体力低下や神経筋適応を妨げることがあります。
高地トレーニングは持久力(有酸素性能力)の向上やハイ・ミドルパワー(無酸素性能力)の向上といったメリットがありますが、体調管理も難しくコンディションを維持することが困難となる場合があります。
安全で効果的な高地トレーニングとするためにも、事前準備や対策、期間中のトレーニング内容の工夫、コンディションチェックの実施、実施後のリカバリー対策やテーパリングに注意を払い、マイナス面を最小限とすることが重要となります。
NSCAジャパン機関誌 2023年4月号p.13-22
飛騨御嶽高原高地トレーニングエリアにおける医・科学サポート
NSCAジャパン機関誌 2017年10月号p.2-8
高地(低酸素)トレーニングの実際とその効果~これからの利活用促進に向けて~
NSCA COACH 2020年号p.5-9
リビングハイ・トレーニングローは究極の持久系トレーニングも出るか?