
バレンタインといえばチョコレート。実は高カカオチョコレートは、アスリートのパフォーマンスを支える“戦略的食品”でもあります。
カカオ豆には、ポリフェノール、アルカロイド、ミネラルなど、複数の機能性成分が含まれています。これらは単独で作用するだけでなく、血管機能、神経系、筋収縮といった異なる生理機構に同時に働きかける点が特徴です。
ここでは、アスリートのパフォーマンスと特に関係が深い成分を中心に見ていきましょう。
カカオポリフェノールの主役は「フラバノール」、中でも「エピカテキン」と呼ばれる成分です。エピカテキンは、体内で血管内皮細胞に働きかけ、一酸化窒素(NO)の産生を促進します。NOには血管を拡張させ、血流をスムーズにする作用があります。アスリートにとって、血流の改善は筋肉への酸素供給効率を高め、代謝産物(疲労物質)の除去を早めることを意味します。
カカオ特有のアルカロイドであるテオブロミンは、カフェインと似た構造を持ちながら、より穏やかで持続的な刺激作用を持ちます。心拍数を極端に上げることなく、血管を拡張させ、気管支を広げる効果があるため、呼吸効率の向上に寄与します。
高カカオチョコレートは、ミネラルの宝庫でもあります。特にマグネシウムは筋肉の収縮と弛緩を司り、足のつり(筋痙攣)を防ぐために不可欠です。また、酸素輸送を担うヘモグロビンの材料となる鉄分も豊富に含まれており、貧血気味な持久系アスリートにとって重要な補給源となります。
では、これらの成分は実際の運動パフォーマンスにどう影響するのでしょうか。国内外の代表的な研究データを見ていきましょう。
英キングストン大学のパテル博士らによる有名な研究(2015年)では、中程度のトレーニングを積んだサイクリストを対象に実験が行われました。
実験内容:1日40gのダークチョコレートを14日間摂取。
結果:ホワイトチョコレートを摂取した群と比較して、「ガス交換閾値(VT)」が21%向上し、2分間の全力タイムトライアルでの走行距離が17%増加しました。
この研究の特筆すべき点は、ダークチョコレートの摂取により、同じ強度の運動をより少ない酸素摂取量で遂行できるようになったことです。これは、持久系アスリートの間で有名な「ビーツジュース(硝酸塩)」の効果に匹敵し、かつ摂取のしやすさで上回る可能性を示唆しています。
激しいトレーニングは体内に「酸化ストレス」を引き起こし、筋肉の炎症や損傷を招きます。イタリアのサピエンツァ大学による2024年の最新研究では、若手エリートサッカー選手を対象に、ダークチョコレートの摂取が筋肉の回復に与える影響を調査しました。
その結果、ダークチョコレートを定期的に摂取したグループは、対照群に比べて筋肉損傷のマーカー(CK:クレアチンキナーゼ)の上昇が有意に抑制され、翌日のパフォーマンス低下が抑えられることが確認されました。カカオポリフェノールの強力な抗酸化作用が、細胞のダメージを「防波堤」のように食い止めているのです。
サッカーやバスケットボールのような球技では、試合終盤の「脳の疲れ」が致命的なミスを招きます。早稲田大学と立命館大学の共同研究(2023年)では、高用量のココアフラバノール摂取が、身体的・精神的な疲労が蓄積した状態での「意思決定能力」を維持させることを明らかにしました。疲労困憊の中でも冷静なパスコースを見極められるかどうか、その差をチョコレートが埋めてくれるかもしれません。
ここまで、チョコレートに含まれる成分と、その生理学的な作用について見てきました。
ここからは、研究で示されている知見をもとに、アスリートが実践しやすい「チョコ戦略」を整理します。

ミルクチョコレートやホワイトチョコレートでは、フラバノールの含有量が極めて少なく、逆に砂糖や脂質の摂りすぎになってしまいます。ポリフェノールの恩恵を受けるには、必ずカカオ含有量70%以上のものを選んでください。
多くの研究で有効性が確認されているのは、板チョコに換算して約1/3〜1/2枚程度です。これ以上の摂取は、カロリーオーバー(脂質の過剰摂取)を招き、体重管理に影響が出る可能性があります。
カカオポリフェノールが血中で最高濃度に達するのは、摂取後約2時間です。試合やハードな練習の2時間前に摂取することで、運動中の血管拡張効果を最大化できます。また、運動後のリカバリー目的であれば、運動直後の糖質・プロテイン補給と一緒に少量を合わせるのも有効です。
血管内皮機能の改善やミトコンドリアの活性化には、単発の摂取よりも継続が重要です。多くの論文では、2週間の継続摂取によって顕著なパフォーマンス向上が見られています。
最新の科学は、チョコレートが、アスリートの血管を広げ、筋肉を守り、脳を研ぎ澄ます多機能なツールであることを証明しました。
もちろん、バランスの取れた食生活が土台であることは言うまでもありません。しかし、日々のハードなトレーニングに「高カカオチョコレート」を加えることで、あなたのパフォーマンスは、これまでとは違う次元へと引き上げられるかもしれません。

1. Patel, R. K., et al. (2015). “Dark chocolate supplementation reduces the oxygen cost of moderate intensity cycling.” Journal of the International Society of Sports Nutrition, 12(1), 47.
2. Cavarretta, E., et al. (2024). “Acute and Chronic Effects of Dark Chocolate on Physical Performance and Recovery in Young Elite Soccer Players.” Applied Sciences, 14(2).
3. Waseda University / Ritsumeikan University Research (2023). “Impact of Cocoa Flavanols on Cognitive Function during Exercise-Induced Fatigue.” Scientific Reports / Psychopharmacology.
4. Allgrove, J., et al. (2011). “Regular dark chocolate consumption’s effects on exercise-induced oxidative stress.” International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 21(2), 113-123.
5. Taub, P. R., et al. (2012). “Beneficial effects of dark chocolate on mitochondrial function and muscle performance in mice and humans.” Journal of the American College of Cardiology, 59(13).
6. Decroix, L., et al. (2018). “Cocoa Flavanol Supplementation and Exercise Performance.” Sports Medicine, 48(4), 867-892.