
「夜の年越しそば」「甘いおせち」。一見太りそうな、年末年始の食習慣。しかし、「時間栄養学」の視点で見ると、これらには合理性も隠されています。本記事では、食事の「タイミング」が代謝や体重に与える影響を解説します。

年末年始は飲食の機会が増え、仕事の休みなどにより生活リズムが崩れやすい時期でもあります。時間栄養学(1)(Chrono-Nutrition)は、食事の内容や量だけでなく、「食べるタイミング」が代謝やエネルギー消費に影響することを示す分野で、近年研究が進んでいます。
特に注目されるのは、体内時計と代謝の関係。ヒトの体は昼間にエネルギーを消費しやすい一方、夜間はインスリン感受性が低下し、血糖値が上がりやすい(夜遅い食事は太りやすい)ことが明らかになっています。また、朝食を摂らない人ほど、肥満や糖代謝異常のリスクが高いという疫学研究も多いです。
したがって、年末年始においても「朝食をしっかり食べ、夜は軽めに済ませる」ことは、体重増加や血糖値の乱れを抑える上で重要です。加えて、食後に軽い活動を行うと血糖値の急上昇が抑えられるため、初詣で歩く、掃除をする、子どもと遊ぶなど、日中に活動を取り入れることが代謝を助けます。
日本の年越しそばは「細く長く」という縁起物であり、多くの家庭で大晦日の夜に食べられます(2)。時間栄養学的に見ると、本来、夜遅くの炭水化物摂取は血糖値を上げやすいですが、「麺類は消化が早く、脂質も少ない」ため、大量の揚げ物や肉料理を食べ続けるよりも負担が少なくて済みます。
さらに、そばは食物繊維を含むため、血糖の上昇が緩やかで、満腹感を得やすいという利点もあります。ただし、天ぷらそばなど高脂肪に偏った場合は、深夜の脂質摂取が消化を遅くし、睡眠の質を下げる要因になります。代謝は睡眠と密接に関連しており、睡眠不足は翌日の食欲増加や体重増加に繋がるとされています。
そのため、そばは「寝る2〜3時間前」に済ませるか、量を控えめにし、揚げ物を減らしたシンプルな形にすることで、伝統文化を守りつつ健康面でも理にかなう食べ方となります。

おせち料理(3)は、保存性を高めるために糖分や塩分が高いという負のイメージが強いですが、一品ごとに見れば栄養価は高く、整った食事パターンを取りやすいという利点もあります。
重要なのは、食べる時間と量の調整です。夜遅くに大量に食べるのではなく、昼に家族とゆっくり食卓を囲むことが、代謝の観点から望ましいでしょう。
栗きんとんや伊達巻などエネルギー量の高い料理は、「朝は多く、夜は少なく」という時間栄養学の原則に沿うように、夕食では控え、朝食や昼食で適量摂るようにしましょう。一方、黒豆や田作り、昆布巻きなどは食物繊維やミネラルが豊富であり、腸内環境や血糖値の安定に役立ちます。
さらに、おせちは「小鉢が並ぶ形」で提供されるため、ゆっくり食べることが促進されやすいのも利点です。早食いは肥満リスクを高めることが多数報告されているため、自然と咀嚼回数が増える形式は健康的であると言えます。
年末年始は飲食を避けにくい時期ですが、時間栄養学の知見を活かせば「食べない」よりも「いつ、どう食べるか」が健康維持に繋がります。
朝・昼を中心にエネルギーを摂り、夜は軽めにする。年越しそばはシンプルに、おせちは昼にバランスよく。そして、食後は軽く体を動かす。
新しい一年のスタートを科学的に健やかなものにするヒントは、“タイミング”というシンプルな習慣にあるでしょう。
1. 柴田 重信 「時間栄養学の基礎から実践へ」日本臨床栄養学会雑誌 2023 年 45 巻 1 号 p. 7-21
2. 農林水産省「お蕎麦を知って美味しい年越しそばを食べよう!」
3. 農林水産省「おせちは一年の幸を願う料理。おせちを知って作ってみよう!」