
限られた時間で効率的にトレーニング効果を得るために、有酸素運動と筋トレを同一セッションで行う「コンカレントトレーニング」。しかし、順番や強度を誤ると、筋力発揮やパワーの向上を妨げる可能性があることが報告されています。
本記事では、有酸素運動の“前後関係”がパフォーマンスに与える影響を探ります。
「コンカレントトレーニング」とは、レジスタンストレーニングと有酸素運動を同一セッションで行う方法です。筋力と心肺系持久能力を同セッション内にトレーニングするため、時間制約がある場合に用いられることが多いようです。しかし、その利便性の裏には、お互いのトレーニング効果を打消しあってしまうという弊害もあるようです。
Hakkinenら(1)は、低頻度のコンカレントトレーニングであっても、爆発的筋力の向上を阻害するとしています。このトレーニング方法によってレジスタンストレーニングの適応を抑制し、筋内毛細血管増加を促すという報告や(2)、高頻度のコンカレントトレーニングによって筋肥大が抑制された(3)という報告もあります。
このように、長期的なコンカレントトレーニングの影響は数多く報告されています。今回紹介する研究では、有酸素運動がレジスタンスエクササイズのパフォーマンスにおよぼす急性的な影響を検証しています。レジスタンストレーニング前に有酸素運動を行うことで、どのような影響が出るのでしょうか? 
Acute resistance exercise performance is negatively impacted by prior aerobic endurance exercise. 
レジスタンスエクササイズの急性的なパフォーマンスは直前の有酸素持久的エクササイズによって阻害される
Ratamess, NA, Kang, J, Porfido, TM, Ismaili, CP, Selamie, SN, Williams, BD, Kuper, JD, Bush, JA, and Faigenbaum, AD. 
J Strength Cond Res 30(10): 2667–2681, 2016 
この研究の目的は、4つの異なる有酸素持久的なプロトコル後のレジスタンスエクササイズの、パフォーマンスへの急性的な影響を検証することである。有酸素運動の強度や時間の違いによって、どのような影響を与えるかを検証した。
健康で日常的にレジスタンストレーニングを行う男性11名
(年齢:21.0±1.2歳、身長178.5±8.7cm、体重:79.9±13.9kg、体脂肪率:13.1±3.9%、スクワット1RM:132.0±41.0kg)
参加者は、コントロールのレジスタンスエクササイズ(RE)と、4種類の有酸素運動(AE)をそれぞれ行った後(各AEの10分後)にREを実施する条件を、無作為の順序で行った。REはハイプル、スクワット、ベンチプレス、デッドリフト、プッシュプレスの5種目を1RMの70–80%で6–10回×3セット(セット間休息3分)で実施した。
AEはトレッドミルで以下の4条件を行った。
P1=中強度(VO₂予備量の60%)で45分の連続走
P2=やや高強度(VO₂予備量の75%)で20分の連続走
P3=高強度(VO₂予備量の90–100%相当)の短時間インターバル走(1:1ワーク/レスト)を5分
P4=中〜高強度(VO₂予備量の75%かつ勾配6–9%)で20分の登り坂走
(注:*VO₂予備量=最大酸素摂取量-安静時酸素摂取量)
主要評価項目は、各REプロトコル中の総実施回数、平均パワー、速度、心拍数(HR)、自覚的運動強度(RPE)で、セットごとに測定した。
4つのAE条件(P1~P4)は、コントロールのREと比較して総実施回数を9.1–18.6%低下させ(図1)、スクワットでの低下が最も顕著であった。
平均パワー及び速度は、ほとんどのAEプロトコル後にハイプル、スクワット、ベンチプレスで有意に減少した。
ハイプル及びスクワットのRPEは、コントロールと比較してP1からP4にて、有意に高かった。
RE中の心拍数も、コントロールと比較してP1からP4において、有意に4.3~5.5%高かった。

これらの結果は、RE前に行われるAEは、エクササイズ様式や強度、持続時間に関わらず、健康な男性におけるレジスタンスエクササイズの急性的なパフォーマンスを有意に減少させることを示した。
また、最も減少が大きかったのは高強度のインターバルエクササイズ後であった。
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この研究結果から、レジスタンスエクササイズ前の有酸素運動はどのような形であれ、その後のレジスタンスエクササイズのパフォーマンスを阻害することが示されました。
運動強度の高いインターバルトレーニングが最も阻害効果が大きくなり、次に影響の大きかったプロトコルは、60%の強度で45分間走るものでした。
この研究では、コンカレントトレーニングを行うことの難しさを改めて示しています。筋力やパワーの向上を主目的とする場合、AEをREの前に行わない、あるいはAEとREを別セッションに分ける配慮が必要でしょう。
スポーツの現場では、有酸素運動の割合が多い練習直後にREのセッションを組むことで、REのパフォーマンス低下が生じる可能性を考慮し、オフシーズンなど筋力やパワーの向上を重視した期間は、独立したREセッションを設けることが望ましいでしょう。
1. Häkkinen, K., Alen, M., Kraemer, W. J., Gorostiaga, E., Izquierdo, M., Rusko, H., … Paavolainen, L. (2003). Neuromuscular adaptations during concurrent strength and endurance training versus strength training. European Journal of Applied Physiology, 89(1), 42–52 
2. Bell, G. J., Syrotuik, D., Martin, T. P., Burnham, R., & Quinney, H. A. (2000). Effect of concurrent strength and endurance training on skeletal muscle properties and hormone concentrations in humans. European Journal of Applied Physiology, 81(5), 418–427 
3. Jones, T. W., Howatson, G., Russell, M., & French, D. N. (2013). Performance and neuromuscular adaptations following differing ratios of concurrent strength and endurance training. Journal of Strength and Conditioning Research, 27(12), 3342–3351