
野球・ゴルフ・テニスなど、物体の打撃を伴うスイングを行うスポーツでは、腰のケガが起こりやすいといわれています。
今回紹介する記事では、こういった回旋動作を頻繁に行うスポーツにおける腰のケガについて、比較的多いケガのタイプや、ケガ予防のためのエクササイズプログラムが紹介されています。
腰痛の原因には様々な要素があります。
ある研究では、腰痛(特に慢性の腰痛)を抱えるアスリートは、特定の単独の筋肉(例えば脊柱起立筋や腹横筋など)の筋力が不足している可能性があると示唆されています。ここでは、特に脊柱起立筋が腰痛の安定化に重要な役割を果たしていることが示されています。
一方で、特定の単独の筋肉よりも、腹筋群の共縮と協調が腰部傷害の原因である可能性を示唆する研究もあります。これは、脊柱起立筋、多裂筋、腹横筋、および内・外腹斜筋を含む複数の筋が、共縮によって安定化を行っているという考えに基づいています。
回旋動作中には、この共縮が最大レベルとなり、そのためケガのリスクも高まることが考えられます。また、逆に回旋動作中に共縮が不足すると、脊柱の安定性が低下するとも考えられます。
脊柱の安定化と姿勢制御に寄与している筋群は、ローカル筋群とグローバル筋群に分けられます。記事では、このうちローカル筋群に着目されています。
ローカル筋群とは、腰椎における分節間運動を直接制御する筋群のことです。外側と内側の脊柱起立筋群、腹横筋、多裂筋、腰方形筋、および大腰筋が含まれます。
記事では、回旋打撃動作における高速での動作を念頭に入れた、4段階で構成されたモデルが紹介されています。
意識/制御の第1段階では、神経筋動作の促通と意識を高めるエクササイズを行います。腹部と腰部の筋群の神経筋を活性化させ、また姿勢制御の向上に寄与します。

またこの段階には、股関節と胸椎の可動性エクササイズも含まれます。
第2段階では安定性の要素を導入します。同時に四肢の動作と非対称性の負荷を加えることで、より大きな四肢の可動域で脊柱の安定性を向上させます。外部負荷は次の筋力段階から導入します。
筋力段階の主な目的は、脊柱の安定性とともに筋力を強化することです。この段階でも、腰椎の回旋は最小限に抑え、股関節と肩関節の可動域を大きく意識することが重要とされています。
最終のパワー段階では、筋パワーの向上を目指し、メディシンボールなどの負荷を高速で動かすエクササイズを組み込みます。
この段階では、負荷をバリスティックに受け止める動作も取り入れます。回旋スポーツにおいて、ボールなどの物体を打撃する際、脊柱をブレーシングで安定させ、力を最大限に伝達するのに必要である急激な筋収縮を再現します。
野球などにおける打撃動作において、高い回旋力を産み出すのは、腰椎や腹筋群の仕事ではなく、股関節と肩関節の仕事です。ただし、この高い回旋力を下半身から上半身へ伝えるのは体幹部の仕事です。
腰のケガリスクを減らすためには、これら様々な筋群を1つのまとまりとして強化する必要があります。先述した4段階のトレーニングプログラムを実行し、回旋動作中の腰椎の安定性を高めることで、リスクを低減することができるでしょう。
記事では、他の腰のケガの要因や、プログラムのエクササイズ一覧なども掲載されています。ぜひ参考にしてみてください。
NSCAジャパン2023年翻訳掲載分 Vol.23 No.4 p.44~51
原文 Strength & Conditioning Journal Vol.35, No.2, 55-62