冷水浴(CWI)は筋肉痛や炎症の軽減に有効とされますが、その効果には一貫性がありません。多くの研究が単回のCWIを対象とする中、本研究ではバレーボール選手を対象に、連日のCWIの効果が検証されました。
結果、ホルモン状態や筋の腫れには一定の改善が見られましたが、パフォーマンスや筋損傷、炎症、酸化ストレスには明確な効果が確認されず、実践的意義は限定的とされました。準備や実施の手間も考慮すると、スポーツ現場での優先度は高くないと結論づけられています。
激しい運動後の回復促進や、炎症・筋損傷の抑制を目的として、冷水浴(CWI:Cold Water Immersion)の活用が広がっています。スポーツ分野では古くから冷水浴に関する研究が多く行われてきましたが、水温・時間・頻度といった条件の違いにより、その効果は一貫していません。
多くの研究ではクレアチンキナーゼ(CK)などの炎症マーカーの減少や、遅発性筋肉痛(DOMS)への効果(1、2、4)が報告されています。さらに、暑熱環境での体温調節(3)や、運動後の副交感神経優位の促進(6)といった効果も挙げられています。
一方で、垂直跳びやスプリントといったパフォーマンスには効果がないとする報告も多く(2、4、5)、CWIが身体に与える生理的影響のメカニズムは未解明です。また、多くの研究が運動直後1回のCWIの効果を検証しているのに対し、実際のスポーツ現場で行われるような「連日のCWI」の影響を調査した研究はほとんどありません。
今回紹介する研究では、バレーボール選手を対象に、連日のCWIの効果を検証しています。
Effect of cold water immersion performed on successive days on physical performance, muscle damage, and inflammatory, hormonal, and oxidative stress markers in volleyball players.
バレーボール選手における身体パフォーマンス、筋損傷及び炎症、ホルモン、酸化ストレスのマーカーに対する連日の冷水浴の効果
de Freitas, VH, Ramos, SP, Bara-Filho, MG, Freitas, DGS, Coimbra, DR, Cecchini, R, Guarnier, FA, and Nakamura, FY.
J Strength Cond Res 33(2): 502–513, 2019
この研究の目的は、バレーボールにおいて毎日の冷水浴(CWI:Cold Water Immersion)が身体のパフォーマンス、筋損傷及び炎症、ホルモン及び酸化のストレスマーカーに与える影響を調べることである。
12名のブラジルスーパーリーグに所属するバレーボール選手(年齢:25.3±5.2歳、体重:91.0±7.4 kg、身長:192.0±6.8 cm、体脂肪率:8.2±2.7%)
5日間のトレーニングにおいて、ポジションが均等になるように6名の選手をCWI(水温:14度)、6名をプラセボへと、無作為に振り分けた。大腿の周径囲、スクワットジャンプ、アジリティの測定を初日、3日目及び6日目に行った。初日と6日目に血液と唾液を採取し、酸化ストレス、筋損傷、炎症及びホルモンのレベルの分析を行った。筋痛及び反動を使った垂直跳びは毎日計測された。
身体パフォーマンスの比較は差異を示さず、唯一のグループ間の大きな効果量を伴う差は反動を使った垂直跳びの一日目と二日目の変化率でみられた(効果量(ES)=-1.39)。遅発性筋肉痛とクレアチンキナーゼは両グループにおいて増加し、グループ間の変化率の比較の効果量は中程度以上にはならなかった。大腿部の周径位はプラセボ群のみで増加し(p=0.04)、変化率のグループ間の比較の効果量は大きかった(ES=1.53)。酸化ストレスと炎症のマーカーについての差異はなかった。コルチゾールはCWIグループにおいてのみ減少し(P≤0.05)、テストステロンとコルチゾール(ES=-1.94)及びインスリン様成長因子1(ES=-1.34)の変化率のグループ間比較の効果量は大きかった。
筋の腫れ及びホルモン状態に対する毎日のCWIのポジティブな効果にも関わらず、パフォーマンスや筋損傷、炎症マーカー、活性酸素種の媒介に対する限られたCWIの効果は、バレーボール選手におけるこの回復方法の連日の実施の重要性の低さを示している。
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CWI群には筋の腫れやコルチゾールの減少が見られましたが、垂直跳びのパフォーマンスには効果が現れませんでした。この研究の筆者はさらに、「CWIの不快感や、それにかかる時間、準備の手間、そして限定的な効果を踏まえると、バレーボールにおいてCWIを特別扱いして用いる必要性は低い」と本文の最後で述べています。
CWIは疲労感や筋肉痛を軽減するという報告(4)もありますが、Broatchらによれば、CWIの効果は一部においてプラセボ効果による可能性もあるとされています(7)。人数の多いチームスポーツでは、CWIを実施するための場所や用具の確保が難しい場合も多く、この研究が示す効果と現場での負担を天秤にかけた場合、リカバリー目的でCWIを実施する優先度は確かに低いと言えるかもしれません。
CWIのメカニズムには依然として不明な点が多く、今回の研究で報告されたコルチゾールの減少なども踏まえると、今後は傷害予防やリハビリテーションなど、他の目的におけるCWIの活用について検証していく必要がありそうです。
1. Leeder, J., Gissane, C., van Someren, K., Gregson, W., & Howatson, G. (2012). Cold water immersion and recovery from strenuous exercise: a meta-analysis. British Journal of Sports Medicine, 46(4), 233–40
2. Ascensão, A., Leite, M., Rebelo, A. N., Magalhäes, S., & Magalhäes, J. (2011). Effects of cold water immersion on the recovery of physical performance and muscle damage following a one-off soccer match. Journal of Sports Sciences, 29(3), 217–225
3. Vaile, J., Halson, S., Gill, N., & Dawson, B. (2008). Effect of cold water immersion on repeat cycling performance and thermoregulation in the heat. Journal of Sports Sciences, 26(5), 431–440
4. Rowsell, G. J., Coutts, A. J., Reaburn, P., & Hill-Haas, S. (2009). Effects of cold-water immersion on physical performance between successive matches in high-performance junior male soccer players. Journal of Sports Sciences, 27(6), 565–573
5. Schniepp, J., Campbell, T. S., Powell, K. L., & Pincivero, D. M. (2002). The effects of cold-water immersion on power output and heart rate in elite cyclists. Journal of Strength and Conditioning Research, 16(4), 561–566
6. Buchheit, M., Peiffer, J. J., Abbiss, C. R., & Laursen, P. B. (2009). Effect of cold water immersion on postexercise parasympathetic reactivation. American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology, 296(2), H421–H427
7. Broatch, J. R., Petersen, A., & Bishop, D. J. (2014). Postexercise cold water immersion benefits are not greater than the placebo effect. Medicine and Science in Sports and Exercise, 46(11), 2139–2147