暑熱下でのスポーツは、選手に極めて大きな身体的負荷を与えます。特に完全装備のウェアは、熱のこもりやすい状況を作り出し、パフォーマンスに深刻な影響を与えることがわかっています。今回はウェアの着用における熱中症対策を考えてみましょう。
1960年代の古典的研究から現代に至るまで、アメリカンフットボールのウェア・装備が体温調節に与える影響について、多くの研究がなされています。ヘルメットやショルダーパッド、膝や腰のパッドといった装備を着用することで、皮膚の約70%が覆われ、熱の放散が大きく制限されます。これにより、熱が体内にこもりやすくなり、疲労困憊に達する時間が短くなることがわかっています。
Armstrongらの研究(2010)では、装備の量を段階的に変えて運動を行わせました。結果は、装備が少ない状態と比較して完全装備の状態では心拍数が顕著に上昇し、運動終了までの時間も短くなったとされています。これは、発汗量が増加しても蒸発による冷却が不十分であり、身体が冷えず、心臓血管系への負担が大きくなるためです。
近年では、合成繊維(例:ポリエステル)による透湿性の高いインナーシャツの有効性も研究されています。これらは着用感や動作性の面で一定の快適性を提供しますが、完全装備の下ではその恩恵が限定的だとする報告もあります。また、装備と皮膚の間の微小環境(湿度・熱)が、知覚的な快適さを損なう要因にもなるとされています。
アメリカンフットボールや野球など、他競技に比べてウェアや装備が厚いとされる競技において、実践可能な対策を紹介します。
①段階的な導入(漸進的着用)
暑熱順化期間中は、初日はショーツとTシャツのみ、次にアメフト競技の場合はショルダーパッドを追加、最終的に完全装備というように、数日かけて装具を段階的に追加することが推奨されます。この漸進により、生理学的適応を得やすくなります。
② 装着時間と練習内容の調整
高温下での2部練習時などは、午後のセッションを軽装に変更することが推奨されます。また休憩時には装具(特にヘルメットやショルダーパッド)を外すことで、熱放散を促進できます。
③ ウェア素材の工夫
合成繊維(ポリエステル製など)のインナーシャツは、通気性・快適性・動作性に優れ、綿素材よりも蒸れにくいと報告されています。ただし、完全装備の下ではその効果は限定的とする研究もあり、過度な期待は禁物です。
④ 個別の発汗量に応じた水分補給
ユニフォームと装具を着用した状態での発汗量は多く、水分補給は一律ではなく個別対応が基本となります。練習前後の体重測定を活用し、脱水を2%以内に抑えるよう、補給戦略を調整します。
⑤ 試合日・ウォームアップ時の工夫
試合前のウォームアップ時は、完全装備ではなくTシャツやショーツのみの軽装での準備が推奨されます。