• スポーツ・健康
  • 熱中症とトレーニング

    高温多湿な環境での運動は、熱中症のリスクが急激に高まります。特に運動中に起こる「労作性熱中症」は短時間で症状が悪化し、重篤な状態に陥ることもあります。体温調節に影響を与える環境要因としては、気温だけでなく湿度や地面の種類も重要です。また、フィットネスレベルや体格、水分補給の状況、服装などもリスクに大きく関わります。
    本記事では、暑熱環境下での安全な運動のための具体的な注意点と対策を解説します。

    熱中症とは?

    人の体は、体の深部温度を約37.5℃に保とうとする仕組みを持っています。運動などで筋肉を使うと熱が発生しますが、発汗や体表からの放熱で体温を調整しています。しかし、この仕組みがうまく働かず体温が上がりすぎると、熱中症になります。

    熱中症には2種類あり、日常生活の中で少しずつ症状が出る「非労作性」と、運動中に急に悪化する「労作性」があります。ここでは、運動による「労作性熱中症」について説明します。 

    熱中症に関係する環境の要因

    暑さ指数(WBGT)
    単なる気温だけでなく、湿度や風などを考慮した「暑さ指数(WBGT)」が使われます(暑さ指数は環境省が毎日発表しておりこちらから確認できます)。気温が高すぎると、体は逆に外から熱を吸収してしまうため危険です。暑さ指数が27.8℃を超えると熱中症のリスクが高まり、33.4℃を超えると屋外活動は避けるべきとされています(3)。

    また、地面の種類によっても体感温度が変わります。たとえば、気温が25℃でも、天然芝の上では24~28℃ですが、人工芝では40~45℃になることもあります(4)。 

    湿度
    汗は蒸発するときに熱を奪って体を冷やしますが、湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、体温が上がってしまいます。気温がそこまで高くなくても、湿度が高いだけで熱中症のリスクは上がります(7)。

    トレーニング時の注意点

    フィットネスレベル
    運動時に筋によって産出された熱は、血液を通して体表まで運ばれ、放射や汗によって熱を体外へ放出し、冷えた血液が体内へと循環します(2)。最大酸素摂取量の向上は暑熱環境への耐性と比例しているため(5)、心肺機能の発達は体温のコントロールの重要な要素の一つであるといえます。

    水分補給
    激しい運動では、1時間に1.37~2.6Lの汗をかきます(6,9)。体重の3~5%分の水分が失われると、体温調整がうまくいかなくなり、パフォーマンスも下がります(7,8)。汗で失った水分を補うには、15~20℃の水を飲むのがよく、糖質が8%以下、ナトリウムが1Lあたり0.5~0.7g含まれると良いとされています(8)。しかし、運動強度が高い場合は、身体が脱水状態になくても熱中症が起こるので注意が必要です(7)。

    運動の強度と時間
    強い運動をすると、体は安静時の15~20倍の熱を生み出します。5分で体温が1℃上がることもあり、20~30分で危険なレベルになることがあります(3,5,7)。

    体格
    体脂肪が多い人は熱が逃げにくく、熱中症のリスクが高まります。BMIが22を超えると、リスクが8倍になるともいわれています(3,5,6)。

    服装や装備
    濃い色の服や通気性の悪い服は、熱を吸収・こもらせてしまい危険です。さらに、ヘルメットやパッドなどを使うスポーツでは、熱がこもりやすくなります(3)。 

    暑熱順化(暑さに慣れること)
    暑さに体を慣らすことも大切です。順化には7~14日かかり(1,3,5)、運動に慣れている人ほど早く順化できます。熱中症は暑さに慣れていない初期の4日~3週間の間に起こりやすいので(7,10)、コーチやトレーニング指導者はこの期間のトレーニング強度や時間を調整する必要があります。暑熱順化期間に起こる身体の適応を以下の表にまとめました。 

    まとめ

    熱中症は重症化すると命に係わる重篤な疾患です。しかし、適切な事前措置や対策を行うことで熱中症を予防したり重症化を防いだりすることができます。
    上記を踏まえて、暑熱環境では以下の点に気を付けての運動を行うようにしましょう。

    ・暑さ指数が27.8℃を超える場合は熱中症のリスクを勘案し、33.4℃を超えた場合は外での運動を控える。
    ・湿度が高いと汗が気化しにくくなるため、気温が低くても熱中症のリスクが高まる。
    ・フィットネスレベルが低い、体重過多、または暑熱順化ができていない人は、熱中症のリスクが増加する。
    ・発汗による脱水症状も深部体温の上昇の要因であるため、運動中は適宜十分な水分補給を心掛ける。1時間当たり600~1200mlの水分の摂取が推奨される。
    ・20~30分の高強度運動で急激に深部温度が上昇するため、15~20分ごとに休息をとる。
    ・暑熱環境では練習強度や時間を調整し、7~14日かけて暑熱順化させる。

    参考文献

    1. Wendt, D., Van Loon, L.J.C., and Van Marken Lichtenbelt, W.D. (2007). Thermoregulation during exercise in the heat: Strategies for maintaining health and performance. Sports Medicine 37, 669–682 
    2. Miyake, Y. (2013). Pathophysiology of heat illness: Thermoregulation, risk factors, and indicators of aggravation. Japan Medical Association Journal 56, 167–173 
    3. Casa, D.J., DeMartini, J.K., Bergeron, M.F., Csillan, D., Eichner, E.R., Lopez, R.M., Ferrara, M.S., Miller, K.C., O’Connor, F., Sawka, M.N., et al. (2015). National athletic trainers’ association position statement: Exertional heat illnesses. Journal of Athletic Training 50, 986–1000
    4. Petrass, L.A., Twomey, D.M., Harvey, J.T., Otago, L., and Lerossignol, P. (2015). Comparison of surface temperatures of different synthetic turf systems and natural grass: Have advances in synthetic turf technology made a difference. Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers, Part P: Journal of Sports Engineering and Technology 229, 10–16 
    5. Cleary, M. (2007). Predisposing risk factors on susceptibility to exertional heat illness: Clinical decision-making considerations. Journal of Sport Rehabilitation 16, 204–214 
    6. Gardner, J.W., Kark, J.A., Karnei, K., Sanborn, J.S., Gastaldo, E., Burr, P., and Wenger, C.B. (1996). Risk factors predicting exertional heat illness in male Marine Corps recruits. Medicine and Science in Sports and Exercise 28, 939–944 
    7. Armstrong, L.E., Casa, D.J., Millard-Stafford, M., Moran, D.S., Pyne, S.W., and Roberts, W.O. (2007). Exertional heat illness during training and competition. Medicine and Science in Sports and Exercise 39, 556–572 
    8. Sawka, M.N., Burke, L.M., Eichner, E.R., Maughan, R.J., Montain, S.J., and Stachenfeld, N.S. (2007). Exercise and fluid replacement. Medicine and Science in Sports and Exercise 39, 377–390 
    9. 岡崎和伸(2018).「運動時の体液変化とその循環および体温調節への影響」『循環制御』38(2), p.82-90 
    10. Cooper, E.R., Ferrara, M.S., and Broglio, S.P. (2006). Exertional heat illness and environmental conditions during a single football season in the southeast. Journal of Athletic Training 41, 332–336

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