プライミングエクササイズやレジスタンスプライミングという言葉をご存じでしょうか?これは、比較的少量の運動刺激により、その後の様々な身体能力が最大で48時間増大するといったもので、試合前などのトレーニング戦略として現場で用いられています。
今回紹介する記事では、このプライミングエクササイズについて研究されている論文を検証し、プライミングエクササイズとしてレジスタンスエクササイズを用いた場合、刺激後48 時間以内のパフォーマンスを向上させるかどうかを特に強く決定する因子に対して言及されています。
プライミングエクササイズとして、大多数の研究では、有負荷ジャンプスクワットも含めたスクワット動作が利用されており、その後のパフォーマンスに影響を及ぼしうるとされています。なおエクササイズの可動域という観点では、フルスクワットとパラレルスクワットではどちらも同様のパフォーマンス反応を生み出したとされており、現時点ではさほど大きな影響はないとされています。
上半身のプライミングエクササイズの影響を検証した研究は限られています。限られた研究より、トレーニング経験豊富なアスリートにおいて、同日内の上半身の筋力とパワー向上を誘発する可能性が示されています。
プライミングエクササイズで扱う強度について、高強度(≧80%1RM)、中強度(約65%1RM)、低強度(≦45%1RM)それぞれで結果は一致していないとされています。例えば中強度のプライミングエクササイズを利用すると、翌日のパフォーマンスを向上させる可能性がありますが、高強度のプライミングエクササイズは同日のパフォーマンスを向上させる可能性が示唆されています。
プライミング反応を誘発するには、様々な強度の変数にかかわりなく、エクササイズの可動域の全範囲で動作を最大化しようとする意識が必要であるとされています。素早い力発揮を意識しない動作と比べると、素早い力発揮を意識する動作はより多くの運動単位の動員を刺激して、運動力学的出力を高める可能性があります。
またバリスティックな意図(最大努力で負荷を加速させる)をもってエクササイズを行うことは、神経筋系の活性化を変化させ、その後のパフォーマンスにポジティブな影響を及ぼしうるとされています。非バリスティックな方法で実施されたレジスタンスエクササイズでは、短縮性局面の最終端で必然的に負荷の減速が発生し、速度、発揮筋力、筋の活性化の低下を伴う可能性があります。非バリスティックなエクササイズと比べると、バリスティックな課題は加速局面が長く、運動単位の動員数が多くなり、これは、パフォーマンスの優れた短期的向上を誘発する可能性があるとされています。
記事内でも言及されているように、プライミングエクササイズについては現在も研究がなされています。その効果は様々で、効果がなかったといった報告や、個人の特性による部分があるといったことも報告されています。プライミングエクササイズの各変数が個々人の特性にどのように相互作用し、またパフォーマンスの経時的な変化に影響していくのか、さらなる研究が待たれるところです。
記事には、プライミングエクササイズとして、スプリントやジャンプエクササイズを用いた場合の研究や、プライミングエクササイズセッションの例も紹介されています。詳しい内容については、ぜひ記事をご一読ください。
NSCAジャパン2024年翻訳掲載分 Vol.31 No.9 p.12~31
原文 Strength & Conditioning Journal Vol46, No.2, 188-206