今回紹介する記事は、NSCAジャパン機関誌からではなく、NSCAジャパンのトレーニング施設であるヒューマンパフォーマンスセンター(HPC)で実施した実験を基に、先日発表した研究論文「The effects of dynamic stretching performed before and between the sets of exercises on vertical jump performance」の内容をご紹介いたします。
ダイナミックストレッチング(DS)は、実際のスポーツ動作に関連した動的柔軟性を向上させる方法です。DSを実施することで、その後のアスレティックパフォーマンスやパワー発揮能力が向上することも多くの研究により明らかにされていることから、ウォーミングアップの一部として広く実施されています。しかし、このDSの効果は、実施後5~10分程度で消失することが研究によって示されています。
トレーニングでエクササイズを実施する際には、複数のセットを実施することが一般的です。またパワーを向上させるような、高重量を用いたトレーニングや、ジャンプトレーニングであるプライオメトリックトレーニングでは、セット間に長めの休息を取ることで、十分な回復を図る必要があります。しかし先に述べたDSの効果の持続時間を考慮すると、セット間の休息時間を長く取った複数セットのプログラムの場合、後半のセットにおいては、運動前のDSの効果が消失している可能性が考えられます。そこで、運動前に加えて、セット間にDSを実施した場合、垂直跳びのパフォーマンスにどのような影響が出るかを検証してみました。
垂直跳びを3回×4セット実施するというプライオメトリックトレーニングを想定したプログラムにおいて、運動前とセット間にDSを実施した場合(FULL condition)、従来通り運動前のみDSを実施した条件(PRE condition)とDSを実施しなかった条件(CON condition)と比較して、後半のセットにおける垂直跳び跳躍高が高い値を示しました。また運動前にのみDSを実施した場合には、後半のセットで跳躍高が低下することも明らかとなりました。
これらの結果から、先行研究と同じように、運動前のDSの効果はセットの途中で消失し、一方でセット間にDSを実施することで、DSを実施しなかった場合よりもパフォーマンスが高い値を示すことが明らかとなりました。エクササイズのセット間はなにもせずに休むことが一般的だとは思いますが、プライオメトリックトレーニングを実施する場合には、セット間にDSを実施することが、有効なセット間の過ごし方になりうるかもしれません。また今後の検証を重ねることで、こういった効果はトレーニング現場だけでなく,チームスポーツへの応用も期待できるかもしれません。チームスポーツにおいては、運動前のウォームアップ後、パフォーマンス発揮の機会を得るまで長時間ベンチで待機しなければならないアスリートもいます。またバスケットボールやバレーボール、フットサルのように、競技によってはコート上でのプレーとベンチ待機を繰り返す場合も想定されます。DSが及ぼす影響の持続時間を考慮すると、このような場面には、ベンチ待機中にDSを実施することが、その後のパフォーマンス向上につながる可能性を秘めているといえるでしょう。
記事には、実施したDSの具体的な方法や、より詳しい考察が記載されています。オープンアクセスの論文で、英文ではありますが誰でも読むことができますので、もし興味が湧きましたら、論文自体もご覧ください。HPCでは今後もトレーニング指導者やトレーニング実践者の皆さまに応用していただける、興味をもっていただける内容の研究を実施していきたいと思います。