
NSCAジャパン機関誌『Strength and Conditioning Journal Japan』2025年12月号を発刊しました。NSCAジャパン会員のみ読むことができる機関誌ですが、毎号数本はどなたでも読めるフリー記事をご用意しています。
●12月号のフリー記事
・消防職員に求められる体力と筋骨格系障害(MSDs)予防の視点
・ダウン症の水泳選手におけるレジスタンストレーニングのプログラムデザイン
・コーチのための速度を基準とするトレーニングの指針:定義と診断
今回はその中から、「消防職員に求められる体力と筋骨格系障害(MSDs)予防の視点」をご紹介します。
消防職員(消防隊、救急隊、救助隊、レスキュー隊)の活動領域は、救急需要の増大や自然災害の激甚化など、社会情勢や環境の変化によって、従来の火災対応を中心とした枠組みを超え、救急・救助を含む多様な緊急事案への対応へと拡大しています。
このような活動領域の多様化に伴い、消防職員に求められる身体的能力も変化しつつあります。従来の筋力や持久力といった単純な体力水準だけでなく、任務に応じた体力要素の最適化や、長時間活動下での安定したパフォーマンス維持が重視されています。
その一方で、特に、重量物の搬送、長時間の姿勢保持、不整地での活動、繰り返し動作などの活動によって、腰部・肩部・膝関節などへの負担は増大し、筋骨格系障害(Musculoskeletal Disorders:MSDs)をはじめとする身体的不調を引き起こす要因となります。したがって、消防職員に対しては、日常の訓練や体力測定のデータを科学的に活用し、負担やリスクを把握したうえで、計画的に体力を管理していくことが求められています。
この記事では、そういった消防職員の業務特性が取り上げられており、それらがMSDsにどう関連しているのか、あるいはMSDsを予防する取り組みなどについて紹介されています。

消防・救急活動は、高温や低視度といった環境ストレスに加え、重装備の携行や不整地での反復動作が重なることで、骨、関節、靭帯、椎間板など、運動器系に大きな負荷がかかる職務です。消防隊員におけるMSDsの有病率は約41〜46 %と推定され、特に腰部、肩、下肢といった部位に集中することが示されています。
具体的には、自給式呼吸器(SCBA)を含む装備重量が、歩行および走行時の膝関節接触力や下肢関節モーメントを増大させ、長期的な膝の障害リスクを押し上げているとされています。また、消防活動に不可欠な梯子や階段の昇降も、転倒、捻挫、過負荷の温床となっています。一方、救急隊員では、有病率が約57 %に達し、腰部、頚部、肩、膝など、患者搬送や移乗に関連した部位で高頻度で認められています。
こういった活動に由来するMSDsに対し、体力評価や予防の取り組みとして、国際的には包括的な枠組みとしての整備が進められています。一方で、日本では教育課程に基づく『新体力テスト』を中心に、職員の体力を評価・育成する仕組みが根付いており、各地域の特性を踏まえた工夫が行われています。
今後は、これまでの取り組みを発展させ、健康マネジメントや障害予防といった観点を、組織全体の戦略として体系的に取り入れていくことが期待されています。
競技アスリートや一般の方だけではなく、消防職員をはじめとした職業関連の障害に対してもトレーニングは重要です。職業ごとのニーズを理解し、アスリート同様、ケガの予防とパフォーマンスの向上のため、トレーニング指導がどう貢献できるか、その役割は重要だと思われます。
●フリー記事1:消防職員に求められる体力と筋骨格系障害(MSDs)予防の視点
●フリー記事2: ダウン症の水泳選手におけるレジスタンストレーニングのプログラムデザイン
●フリー記事3:コーチのための速度を基準とするトレーニングの指針:定義と診断
その他、12月号には以下の記事を掲載しています。
・クライアントがパーソナルトレーニングを継続するために必要なトレーナーの資質に関する研究
・ファーストプルに特異的な筋力の向上を目的としたエビデンスに基づくアプローチ:ナラティブレビュー
・ファーストレスポンダー訓練生の体力向上を目的としたストレングス&コンディショニングコーチにおける特別な留意点
・筋肥大と筋力パフォーマンスとの関連性:物理学に基づく概念的な不正確性の分析
・ランドマインルーマニアンデッドリフト
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