
コーヒーはカフェインだけでなく多様な生理活性成分を含む複雑な飲料だということをご存じですか?これらの成分は神経・筋・認知・代謝に影響を及ぼし、反応速度・筋力・持久力など多様なスポーツパフォーマンスを高める可能性があります。

トレーニング前に飲むコーヒーは、単なる覚醒飲料にとどまりません。国際スポーツ栄養学会(ISSN)は、コーヒーは豆の種類、焙煎、抽出条件によっての成分に大きな幅がある「複雑な食品」であると位置付けています。代表的な成分であるカフェインは、摂取後数分で血中に現れ、疲労感や痛覚を抑制し、運動単位を活性化することで筋力発揮をサポートします。
一方で、クロロゲン酸などのポリフェノールも代謝や認知へ影響を及ぼす可能性が指摘されており、カフェインレスコーヒーでも認知機能が改善した例も報告されています。つまり、コーヒーの効果は「カフェインの作用」だけでは説明しきれず、複数成分の相互作用が重要となります。
コーヒーは短時間高強度運動にポジティブな影響を与える可能性があります。特に反応速度や瞬発力において、摂取後にバー速度やピークパワーが向上した研究が報告されています。
一方、持久系運動では、カフェイン自体のエルゴジェニック効果は広く認められていますが、コーヒーそのものの効果を検討した研究は多くありません。ある試験では、カフェインカプセルは持久力を向上させたが、コーヒー飲料では同様の結果が得られなかったという報告もあります。
この違いには、成分同士が効果を強め合う「アントラージュ効果」や、逆に効果を阻害する「コーヒーパラドックス」が関与する可能性があります。
コーヒーの効果には大きな個人差が存在します。その要因は、遺伝的特性、習慣的摂取、腸内環境、性別などが効果の強さを左右することによります。ISSNは運動前の摂取について、カフェイン3~6mg/kgを目安に、運動60分前の摂取を推奨しており、具体的には、2~4杯(473~946 ml)の抽出コーヒーが目安となります。
ただし、カフェイン感受性が高い人や夜間のトレーニングでは、摂取量を減らすことが望ましいかもしれません。また、睡眠や胃腸症状への影響も考慮が必要です。

コーヒーは、神経、筋肉、代謝、認知といった多方面に作用し、反応速度から持久力まで、幅広い運動パフォーマンスに影響する可能性が示されています。ただし、効果はカフェイン単体と異なる場合があり、成分の相互作用や個人差が影響するため、普遍的な“正解”はないことを認識することが重要です。
それでも、トレーニング前の一杯は、科学的に意味のある選択となり得るでしょう。自分に合う量とタイミングを探ることで、日常的な習慣が競技力向上に繋がる可能性は十分にあります。
Lonnie M. Lowery et al. International Society of Sports Nutrition position stand: coffee and sports performance. J Int Soc Sports Nutr. 2023 Dec;20(1)