• スポーツ・健康
  • 筋トレでぐっすり!ストレングストレーニングで睡眠を変える

    夜ふかしやスマホ習慣で、十分に眠れていない10代は少なくありません。睡眠不足は集中力や学業成績だけでなく、肥満やメンタル不調のリスクにもつながります。これまで、睡眠改善には有酸素運動が効果的とされてきましたが、今回紹介する研究では、筋トレでも睡眠の質や時間が改善することが示されています。 本記事では、その内容をご紹介します。

    スポーツパフォーマンスにとって睡眠は重要な要素の一つです。睡眠は心身の回復を促進し、一般的には7~9時間の睡眠が推奨されており(1)、トレーニングの強度が高いほどさらに多くの睡眠が必要とされています(2、3)。また、睡眠時間とともに睡眠の質も重要で、質の良い睡眠は心身の回復や覚醒度の向上につながります(4)。

    トレーニングが睡眠に与える影響も多く研究されており、トレーニングやエクササイズは様々な対象に対して睡眠の質や量を向上させると報告されています(3、5-9)。その理由として、トレーニング後に成長ホルモンや成長ホルモン分泌ホルモンの分泌が促進されることが、睡眠の質を向上させる要因であるとの説があります(5)。

    前述のとおり、トレーニングが睡眠に与える影響は多く調査されておりますが、その対象は高齢者やアスリートまたは疾患を患う人でした。今回紹介する研究では、青少年期の被験者を対象にしています。 

    Effects of strength training on sleep parameters of adolescents: a randomized controlled trial. 
    ストレングストレーニングが青少年期の睡眠のパラメーターに与える影響:無作為化比較試験

    Santiago, LCS, Lyra, MJ, Germano-Soares, AH, Lins-Filho, OL, Queiroz, DR, Prazeres, TMP, Mello, MT, Pedrosa, RP, Falcão, APST, and Santos, MAM. 
    J Strength Cond Res 36(5): 1222–1227, 2022 

    目的

    この研究の目的は、12週間のストレングストレーニング(ST)が睡眠に関する問題を訴える青少年期の被験者の睡眠の質と日中の眠気に与える影響を調査することである。

    被験者

    30名の青少年期の被験者がストレングスグループ(ST;n=18、16.4±1.6歳、1.67±0.07 m、63.3±12.2㎏)またはコントロールグループ(CG;n=12、16.0±1.4歳、1.70±0.09 m、62.6±11.1㎏)に無作為に振り分けられた。

    方法

    体型、体組成、最大挙上重量、および睡眠に関するパラメーター(ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)及びエプワース眠気尺度(ESS))を評価した。トレーニングは1日当たり55分間(12週にわたって週3回)で、セット間およびエクササイズ間に1分間の休息を挟んで10-12回を3セット行った。ベースラインと介入後の差を一般化推定方程式およびCohenのd係数による効果量(ES:Effect Size)を用いて分析した。有意水準はp < 0.05とした。 

    結果

    12週のストレングストレーニング後の結果は以下のようであった。

    【PSQIスコア】
    ST群で有意な低下(7.3 ± 0.7 vs. 5.1 ± 0.6; ES=4.10)が認められたが、CG群では認められなかった(6.3 ± 0.8 vs. 7.4 ± 0.7; ES=1.53)。

    【ESSスコア】
    ST群で有意な減少が認められたが(10.1 ± 0.7 vs. 8.2 ± 0.7; ES = 3.08)、CG群では差がなかった(10.7 ± 0.8 vs. 11.0 ± 0.7; ES = 0.56)。

    【総睡眠時間(h/min)】
    ST群では増加したが(6.2 ± 0.2 vs. 6.9 ± 0.2;ES = 3.60)、CG群では差がなかった(7.0 ± 0.2 vs. 6.8 ± 0.1; ES = 1.32)。

    個別解析の結果、青少年の約67%がST後にPSQI(8.3、信頼区間(CI)95%: 6.8-10.1)およびESS(8.3、CI 95%: 6.7-9.9)の得点の低下を示した。一方CG群では、得点の低下を示したのは約17%にすぎなかった(PSQI:11.1、 CI 95%:9.5-12.9および ESS:11.0、CI 95%:9.4-12.6)。

    結論・応用

    ストレングストレーニングは睡眠の質を向上させ、また総睡眠時間を増加させた。

    オリジナルの文献はこちら 

    今回紹介した研究では、ストレングストレーニングによって青少年の睡眠時間や質が向上し、日中の眠気が改善されたと報告しています。ストレングストレーニングの内容はレッグエクステンションやレッグプレス、ベンチプレス、ラットプルダウンなど一般的なエクササイズを含み、強度は1RMの75%で行ったと記述されています。また、被験者は特にスポーツやエクササイズを行っていない青少年でした。

    これまで多くのメタ分析やシステマチックレビューが、運動と睡眠の関係性について検証していましたが、その多くは有酸素運動でした。例として、Yangら(10)の中高年を対象にした研究を集めたシステマチックレビューでは、40~60分の有酸素運動(最大心拍数の60~85%)が睡眠の時間や質を向上させると報告しています。近年、ストレングストレーニングを用いた同様の報告も多く行われており、有酸素運動、ストレングストレーニングともに、睡眠の質や時間の改善に効果があることが示されてきています。

    しかしながら、前述のとおり、トレーニングや練習の強度が高かったり、時間が長かったりすると、睡眠効率が低下したり、より多くの睡眠を必要としたりします(2、3)。睡眠の改善を目的にエクササイズを導入する場合は、運動強度を考慮する必要があります。 

    参考文献

    1.Calder, A. (2003). Recovery strategies for sports performance. USOC Olympic Coach E-Magazine, 15(3), 8-11. 
    2.Teng, E., Lastella, M., Roach, G., & Sargent, C. (2011). The effect of training load on sleep quality and sleep perception in elite male cyclists. Little clock, big clock: Molecular to physiological clocks, 5-10. 
    3.Thornton, H. R., Delaney, J. A., Duthie, G. M., & Dascombe, B. J. (2018). Effects of preseason training on the sleep characteristics of professional rugby league players. International journal of sports physiology and performance, 13(2), 176-182. 
    4.Walters, P. H. (2002). Sleep, the athlete, and performance. Strength & Conditioning Journal, 24(2), 17-24. 
    5.Ferris, L. T., Williams, J. S., Shen, C. L., O’Keefe, K. A., & Hale, K. B. (2005). Resistance training improves sleep quality in older adults a pilot study. Journal of sports science & medicine, 4(3), 354. 
    6.Ramos-Campo, D., Martínez-Aranda, L. M., Caravaca, L. A., Ávila-Gandí, V., & Rubio-Arias, J. Á. (2021). Effects of resistance training intensity on the sleep quality and strength recovery in trained men: a randomized cross-over study. Biology of Sport, 38(1), 81-88. 
    7.Viana, V. A. R., Esteves, A. M., Boscolo, R. A., Grassmann, V., Santana, M. G., Tufik, S., & de Mello, M. T. (2012). The effects of a session of resistance training on sleep patterns in the elderly. European journal of applied physiology, 112(7), 2403-2408. 
    8.Whitworth, J. W., Nosrat, S., SantaBarbara, N. J., & Ciccolo, J. T. (2019). High intensity resistance training improves sleep quality and anxiety in individuals who screen positive for posttraumatic stress disorder: A randomized controlled feasibility trial. Mental Health and Physical Activity, 16, 43-49. 
    9.Silva-Batista, C., De Brito, L. C., Corcos, D. M., Roschel, H., De Mello, M. T., Piemonte, M. E., … & Ugrinowitsch, C. (2017). Resistance training improves sleep quality in subjects with moderate Parkinson’s disease. The Journal of Strength & Conditioning Research, 31(8), 2270-2277. 
    10.Yang, P. Y., Ho, K. H., Chen, H. C., & Chien, M. Y. (2012). Exercise training improves sleep quality in middle-aged and older adults with sleep problems: a systematic review. Journal of physiotherapy, 58(3), 157-163. 

    関連の記事

    • スポーツ・健康

    遠征時の時差ボケを抑えるには?

    • スポーツ・健康

    運動中に脚がつる原因

    • スポーツ・健康

    トレーニングの歴史

    • スポーツ・健康

    安全で効果的な高地トレーニングをするために

    • スポーツ・健康

    二つの異なる複合的なエクササイズに対する急性的な反応:スクワットvsデッドリフト

    • スポーツ・健康

    動画でトレーニング紹介「ラットプルダウン」

    • スポーツ・健康

    歩行速度を高めるトレーニングと寿命の関係

    • スポーツ・健康

    大学の新入生アスリートにまず指導すべきトレーニングとは

    • スポーツ・健康

    筋肉痛を軽減させるためには?

    • スポーツ・健康

    疲労を“見える化”する!Velocity Based Training(VBT)の活用法

    • スポーツ・健康

    高齢者の認知的アジリティ

    • スポーツ・健康

    熱中症とトレーニング

    アーカイブ