ランニングは健康的で気軽な運動ですが、実は骨折のリスクが高いスポーツでもあります。そこには、特に「骨密度の低さ」が関係しているといわれています。では、どうすれば骨を守れるのか? 今回紹介する研究では、ランナーの骨密度とレジスタンストレーニングの関係を探ります。
用具も必要なく気軽に行えるスポーツ、ランニング。しかし、特に体重が多い人はランニングによる怪我が起きやすいと言われています(1)。さらに、ランニングは疲労骨折が最も発生しやすいスポーツだという報告もあります(2)。
疲労骨折の原因として挙げられるものには骨密度がありますが、これには内分泌ホルモンや栄養摂取、性別、生活習慣など、様々な要因が関係しています(3, 4)。また、ランナーの骨密度については、負荷のかかる部位以外の骨密度が低いという報告もあります(5)。その傍ら、レジスタンストレーニングには骨密度を高める効果があります。
今回紹介する研究では、レジスタンストレーニングを行ってきたランナーと行ってこなかったランナー、及び普段運動をしない人を対象に、骨密度とそれに関係するホルモンやバイオマーカーを比較しています。
Resistance training is associated with higher bone mineral density among young adult male distance runners independent of physiological factors.
レジスタンストレーニングは生理的な要因とは無関係に若い成人男性長距離ランナーの高い骨密度と関係がある。
Duplanty, AA, Levitt, DE, Hill, DW, McFarlin, BK, DiMarco, NM, and Vingren, JL.
J Strength Cond Res 32(6): 1594–1600, 2018
男性長距離ランナーの骨密度(BMD)の低さは一般的で、骨組織の動的バランスに関係する多種のバイオマーカーによって調節されるといわれている。対して、レジスタンストレーニングは骨密度を増加させることができるが、長距離ランナーにおいてレジスタンストレーニングが骨密度を維持するために有効であるかは、明確ではない。
この研究の目的は、若い成人男性長距離ランナーにおけるレジスタンストレーニング、テストステロン及び骨代謝のバイオマーカーの濃度と、骨密度の関係性を調査することである。
25名の健康な男性(23-32才;年齢:25.9±2.9才、身長:1.77±0.04 m、体重:75.4±8.5 kg)。ランナーの走行距離は1週間の総距離が32km以上。
被験者は過去3年間のトレーニング状況に基づき、以下3つのグループに分類された。
・トレーニングを行わないコントロール群(CON、n=8)
・レジスタンストレーニングを行っていないランナー(NRT、n=8)
・レジスタンストレーニングを行っていたランナー(RT、n=9)
血液を採取し、遊離及び総テストステロン、14項目の骨代謝バイオマーカーの濃度を分析した。骨密度はDEXA(二重エネルギーX線吸収測定法)を用いて測定した。
骨密度は、全ての計測部位において、NRTとCONに比べてRTの方が大きかった(p≤0.05、図1)。
ビタミンDの濃度は、CONに比べてRT及びNRTの方が多かった(p≤0.05、表)。
テストステロンやそのほかの骨代謝バイオマーカーの濃度に、グループ間の差はなかった(p>0.05、図2および表)。
レジスタンストレーニングを行うランナーは、レジスタンストレーニングを行わないランナーやトレーニングを行わない人に比べて骨密度が高かった。この差は、骨の形成または再吸収に貢献するバイオマーカーによって調整されるのではないようで、これは骨密度の違いは外的な負荷を用いた習慣的な過重負荷エクササイズに関係していることを示している。
骨密度の向上と関連があることから、ランナーは少なくとも週に一度はレジスタンスエクササイズを行うべきである。
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本研究では、ランナーがレジスタンストレーニングを取り入れることで、骨密度を高められる可能性が示されました。興味深いのは、テストステロンや他のバイオマーカーによってこの骨密度が調整されるのではなく、レジスタンストレーニング単体が骨密度の低下を防ぐための要素となり得るということです。
また、女性においては、骨密度を維持する役目を担う重要な内分泌ホルモンであるエストロゲンが(6)、閉経後に分泌が低下した後でも、専門家によって作成・管理されたレジスタンストレーニングを行うことによって、骨密度の低下を抑えられるかもしれません。
疲労骨折などの怪我を予防して、趣味や競技として健康的にランニングを楽しむためにはもちろん、長期的に骨粗鬆症などの疾患を防ぐためにも、レジスタンストレーニングの導入は重要となってくるでしょう。
1. Nielsen RO, Buist I, Parner ET, et al. Predictors of Running-Related Injuries Among 930 Novice Runners: A 1-Year Prospective Follow-up Study. Orthop J Sports Med., 1, 2013
2. Matheson, GO, Clement, DB, Mckenzie, DC, Taunton, JE, Lloyd-Smith, DR, Macintyre JG, Stress fractures in athletes. A study of 320 cases. The American Journal of Sports Medicine, 15(1), 46-58, 1987
3. Reid, IR, Ames, R, Evans, MC, Sharpe, S, Gamble, G, France, JT, Lim, TM, Cundy TF, Determinants of total body and regional bone mineral density in normal postmenopausal women–a key role for fat mass. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 75(1), 45–51, 1992
4. Pocock, NA, Eisman, JA, Yeates, MG, Sambrook, PN, Eberl, S, Physical fitness is a major determinant of femoral neck and lumbar spine bone mineral density. J Clin Invest. 78(3), 618–621, 1986
5. Bilanin, JE, Blanchard, MS, Russek-Cohen, E, Lower vertebral bone density in male long distance runners. Medicine and Science in Sports and Exercise 21(1), 66-70, 1989
6. Khosla, S, Melton, LJ III, Atkinson, EJ, O’Fallon, WM, Klee, GG, Riggs, BL, Relationship of Serum Sex Steroid Levels and Bone Turnover Markers with Bone Mineral Density in Men and Women: A Key Role for Bioavailable Estrogen. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 83(7), 2266–2274, 1998